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第39話 柊夏帆との遭遇

「久しぶりですね、白石君。」


 あやねるよりも心持ち高めの声が、耳に心地いい。

 と言っても、他の男子生徒が見る目よりは冷めた目で柊先輩を見た後に、軽く頭を下げる。


「こんにちは、柊先輩。」


 かなりテンションが低くなったことに、景樹の目が少し見開かれたように感じた。


「こんにちは、柊先輩。」


「ああ、白石君の友達、かしら。初めましてというのもなんですけど、生徒会3年の柊夏帆です。よろしくね。」


「オレ、光人と同じクラスですから、先輩をそれなりに知っているつもりだったんですが…。あ、いや、いいです、すいません。」


 おお、凄いな柊先輩。このイケメンが眼中にないのか。

 景樹がしょげるのって、初めてかもしれない。

 先程まで、たぶん俺を大笑いしてたから、ちょっとスッキリした。


「ああ、白石君と同じってことは、彩ちゃんとも一緒だね。1Gだったら壇上で話してるかしこまってる私よりも、素に近い方見てるよね。彩ちゃんとはもう無二の親友みたいなもんだし、岡崎先生とも親しいんだよ、私。これからもちょくちょく顔合わせると思うからよしくね、佐藤君。あ、もし良ければだけど下の名前、教えてもらえるかな?」


 そう言って先輩が、一般男子を虜にしてやまない笑みを景樹に向けた。


 本当に記憶の片隅にも景樹の存在がないらしい。

 俺とあやねるは保健室の外で会ってるから先輩にしっかり覚えられてるけど、この爽やかイケメンを完全に忘れるって…。


 恐るべし、柊夏帆。


(でも佐藤君も可哀想ではあるよな。あの外見と中身がほぼ完璧に格好いいから、自分でも無意識で女子には覚えてもらってると思ってたんだろうに…。この子は光人のことしか頭になかったんだろうな、きっと)


(何言ってんだよ、親父。俺なんてどうでも…ってことはないな、うん。完全に俺を意識しての行動だよな、この人)


(そういうことだが…。光人との絡みは佐藤君もわかってはいるんだろうけど、ここまであからさまに対応されたのは生まれてから初めてなんじゃないか?彼、結構いいとこの生まれみたいだし)


(そうなんだろうね、きっと。でもそれだけの環境でここまで性格がいいってのも、考えてみたらすごいよな、景樹は)


(きっと、恋愛の痛手も絡んでんだろうけどね。光人も、これだけ女子が寄って来てるからって、そこのところ、気をつけろよ)


(それは大丈夫じゃないかな。こんな風に24時間、親の監視下にいるからな)


(それもそうか、ハハハ)


 笑い事じゃねえよ、くそ親父!


 たぶん、この心の声も聞いてるんだろうが、変な返しはしてこなかった。


 明らかに落ち込んでいる景樹にはいい気味だと思いつつ、柊先輩を見た。


「さっきの話だと小説を描くようなこと言ってたけど、白石君も文芸部に入部するのかしら?」


 先程あやねるとの話から無難な話題を選んだんだろうな、この先輩。

 でもね、柊先輩。

 その言葉にえらく過敏に反応して、表情がじゃたくなっている女子が、あなたの隣にいるんですよ?


 その隣の女子、あやねるが露骨に不機嫌そうな視線を俺に向けてきた。


「べ、別に、そういう訳ではないですよ、柊先輩。俺の友人が文芸部に入って新しい小説のネタを考えてただけですよ。なあ、景樹?」


 いまだ精神的なショックから立ち直れていない景樹が、「ああ」とだけ答えている。


 景樹の家が芸能事務所をやっていて、伊乃莉をモデルに誘うくらいだから、柊先輩の容姿にビビってるはずはない。

 でも、無視される、というか完全な無関心な言葉には耐性がないようだ。

 面白い。

 このネタは今後使える。

 このことはしっかりと頭に焼き付けておこう。


(うわあ~、引くレベルであくどいこと考えてるな、光人)


(当然だろう?さっきあんなに笑われたんだぜ)


「そうか、返事がなくて嫌われたみたいだけど、佐藤カゲキ君ね。ちなみにカゲキってどう書くのかな?」


 俺に聞いてきた。


 視線が俺に向かってることに気付いた景樹が俺を見る。

 俺が少し瞼を動かしたら、その動きに景樹がコクリと頭を下げた。


「景色の景に樹木の樹、です。」


 景樹が俺の声に頷く。


「白石君のお友達って、シャイなのね。うん、景樹君、覚えたよ。佐藤って友人がそれなりいるから、景樹君って呼ぶね。いいかな。」


 柊先輩。

 その仕草を巷ではあざといって言うんですよ。


 先輩は景樹に対して、俯く視線に強引に合わせるように中腰で下からのぞき込んできたのである。

 横から見ている俺ですら、この娘、俺に気があるんじゃね?と思わせるほどの動きだ。

 もしくは照れてる後輩にからかうような態度に隠れた高位の感情が溢れてる、みたいな。


「うぐっ。」


 景樹が呻いて、大慌てで顔を上げた。


 あっ、照れてやんの。

 顔がうっすらと赤い。

 ネタ2つ目、ゲット!


「あ、はい。そう呼んでくれた方が、お…、僕もいいです、はい。」


 一人称を訂正してやんの。


「じゃあ、私も景樹君って呼んだ方が良い?」


「あっ、宍倉さんはどっちでもいいよ。」


 切り替え、はやっ!


「露骨に態度替え過ぎじゃないのかな、景樹君。」


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