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第37話 文芸部への誘い Ⅱ

「確かに、そういうのもありだね。」


 あっ、日向さんったら、前向きな発言。


「先生、入部するんですか?」


 珍しく須藤が自分から女子に話しかけてる。

 あっ、違うか。

 憧れの人が同じ部に入ってくれて嬉しんだろうな、きっと。


「何度も言ってるけど、須藤君。先生はやめて。それと同じクラスなんだから、敬語もダメ。守れないのであれば、私はあなたを無視します。」


「す、すいません。」


 日向さんの強い口調に、目に見えて消沈してる須藤。

 う~ん、須藤の精神のアップダウンが激しい。


「とりあえず、考えておくってことでいいかな、有坂?」


「う、うん。とりあえず、ね。ね。」


 なんだ、この日向さんに媚を売るような感じ。

 普段のギャル先輩にはあんまり見られないが。

 妙にもじもじして、まずい、可愛いとか、思っちゃ、だめだ、俺。


 その口ぶりに明らかな苦笑いをしてるな、日向さん。入部云々とかって、話とは違うことで、アイコンタクトしてそうな気がするんだが…。


(おお、うちの息子が、人の機微に敏感になってる!成長著しいな、光人)


(いや、さすがに二人を見てれば、俺でなくとも気づくとは思うけど…。あれ、ギャル先輩がちらっとこっちを見てきた。すぐ目を逸らして、また日向さんを見たけど…。何故?)


(やっぱり光人は 光人か…。はあ~)


(あからさまにため息をつくな!)


 しょうがないって感じで、日向さんが俺を見てきた。


「白石君。これも何かの縁だから、さ。一緒にこの文芸部、入部しない?」


 今、誰かが俺に何か言った気がするんだが…。

 おかしい。

 最近は睡眠もとれてるから、疲れってのも感じなくなって…、いや、違う意味で入学以来疲労してるわ、俺。


(なかったことにすんな、光人!現実をしっかり見ろ!)


「一緒だったらはいってもいいかな、って思ってるんだけど。」


「いやいやいや、日向さん?それ、おかしいでしょう。なんで俺と一緒なら入ってもいいって結論になるんですか?」


 そう俺が言った瞬間、ギャル先輩の鋭い眼光が、俺の横で落ち込んでいた須藤に突き刺さった。

 体がビクッて感じ震えたのがわかった。

 明らかに困惑している須藤。

 さらに追い打ちをかけるようにして、ゆっくりと顔を縦に振るギャル先輩。

 ここはここで、言葉を使わずに会話してるんですけど!

 怖い、怖いよ!


(はあ、有坂って子。必死だなあ。なんか父さん、応援したくなってきた)


(こっちはこっちで何言ってんだよ、親父!)


「な、なあ、白石。雅楽、いや、日向さんも入部する気になってるみたい、だし…、お、お前も、入らないか?」


 須藤君?言ってる意味は解るけど、日向さんの入部と俺、関係なくなくない?

 しかも、自分でいい事思いついちゃった、って態にしてるけど、明らかにギャル先輩に脅されてるよね、君?

 完全にどもっちゃてんじゃん。


「今、この、この部にさ、はあ~、俺しか、だ、男子、いないし…。入ってくれると、俺も、気が楽っていうか、はあ~。」


 ため息入れながらしゃべんじゃねえよ、須藤!

 なんでお前、ギャル先輩に脅されながら、俺を勧誘してんだ?


「そうね、光人君入ってくれると、確かに頼れる後輩が出来ていいね。」


 とうとう詩織先輩まで参戦ですか。


 おい、景樹!

 笑い堪えるのやめろ!

 俺は全然面白くない!


「何度でも言いますけど、俺、小説なんて書けませんから!幽霊部員を認めないのなら、無理ですって。家の都合でバイトも考えてますし。」


「確かに小説が書ければそれに越したことは無いけど…。でも本読むの、好きだよね?」


 部長が確信をもって俺に聞いてきた。

 その言葉から、俺は須藤がここの部員に俺のことをしゃべったことを知った。

 俺は思わず須藤に視線を向けたが、完全にかわされ、須藤は全く誰もいない方を見ている。


「それは、確かに、本、読んでますけど…。」


 嘘をつくことも考えたが、ヒトよりは読書にかける時間が多いのを自覚しているので、頷くしか道はない。


「だったら、文化祭の時にお勧めの本を紹介するっていうスペースもあるから、それを展示してくれればいいよ。部室に毎日来る必要なんかないんだから、バイトにも支障はないと思うんだけどな…。」


 俺の提示する文芸部に入部できない理由をことごとく潰していく大塚詩織先輩。

 それを頼もしげに見ているギャル先輩。


 ちょっと確認したいんだが、ギャル先輩は「女泣かせのクズ野郎」は嫌いなんですよね?


(光人君や。あまりそんな正論を言って先輩を蔑ろにせんほうがええぞ。今の態度見てたら、お前に悪感情があるようには見えんだろう)


(今だけを見ればそう見えるけどさ、親父。このギャル先輩はみんなの前で俺を罵倒してんだよ?素直になんかなれないし、ましてや入りたくもない部に入る気はないよ)


(部活動自体をする気がないのは解ってるが、文芸部だったら、かなり時間が自由だ。先輩、特に頭の言い、悪い言い方をすれば試験の得点を稼げる先輩と仲良くなっておくのは、将来的にかなり有利だよ。友達ができるメリットもある)


 親父の言いたいことは解るが、ならばこの部でなくとも…。


(結構他の文化部だと、きついとこはきついぞ。茶道部なんて週何回か講師が来て茶の心なんてものを解いていったりする。原則正座だし。演劇部や吹奏楽、軽音が真面目にやればきついことは想像つくだろう?)


(そうだけど、部活自体に入るメリットは大きくはないよ)


(入ってみなきゃわからんさ。須藤君も入って、この調子だと日向さんも入りそうだ。君を毛嫌いしていたはずのギャル先輩も、すでに好意的。部長までもがフレンドリー。いい物件だ)


 ほとんど洗脳に近い。

 このまま入ってしまうのは、なんか悔しい。


 ということで。


「わかりました。なんで俺が入らないといけないかが、今一つ納得してませんが、学力テストが終わったら、考えてみます。」


 この俺の言葉に、須藤が安心して大きなため息をついて、日向さんが含み笑い。

 景樹に至っては完全に俺に背を向けている。

 その背中が小刻みに震えている。

 一体何がそんなに可笑しいのだろう?


 そして、目の前のギャル先輩の満面の笑顔は何を意味しているんだ?その横の部長は微笑ましく、穏やかにみんなを見ていた。


「うん、光人君分かった。学力テスト明け、楽しみにしてるね。」


 部長の声に、軽く頭を下げたら、景樹に腕を引っ張られて立たされた。


「それじゃあ、日向さんの作品も見せてもらえたので、これで失礼します。」


 景樹がそう言って俺を促した。



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