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第35話 裕美って呼んで!

「光人!お前は私を何だと思ってる!好き勝手な事ばっかりやってるわけじゃないよ!それと、そのギャル先輩って言い方、やめろ!」


 あっ、もう俺のことは光人って呼ぶことにしたんですね、ギャル先輩。


「そう言われましても…。以前「有坂」という名前は記憶から消せと言われてましたし。部活動紹介を見ている限り、好き勝手やっているようにしか見えなかったから。」


「そうだね、それはしょうがないね。裕美が悪いよね、それ。特に白石君への突っかかりは常軌を逸してたしね。なにかあるのかと。」


「わー、それ以上喋るな、詩織!」


「では先輩のことは、何とお呼びすればいいんでしょうか?」


 俺は素直に聞いた。


「えっ、そ、それは……、ゆみ、って、呼んでくれれば…。」


 うん、なんか今、えらく乙女チックな言葉が聞こえたような…。


(いや、幻聴じゃないよ、光人。誤魔化すんじゃないぞ、ちゃんと聞いてやれ!)


(はい?)


「あの…、先輩?今、なんて言いました?」


「だから…、ゆみって、呼んで、くれれば…。」


「えっ?」


「何度も言わせんじゃないよ!私が光人って、下の名で呼んでんだから、裕美って私を呼べばいい!っていったんだよ!」


 ギャル先輩が顔を真っ赤なゆでだこ状態で、俺に言い放った。

 照れるくらいなら言わなきゃいいのに。


「照れるくらいなら、そんなこと言わなきゃいいんじゃない。」


 まるで俺の思考を読んだかのような、大塚部長のお言葉。


「うるさい!名字呼びを否定したのは事実なんだから。ギャル先輩なんて恥ずかしい呼び方、らいとに、されたくないし…。あ、憧れも…。」


 だんだん音量が下がってきた。

 あれ、ギャル先輩って、俺を嫌っていたんじゃなかったっけ?


「ああ、もう。聞いてるこっちが恥ずかしいわ。わかった。じゃあ、白石君も須藤君も、それにイケメンの佐藤君も、裕美のことは「裕美先輩」って呼んであげて!ついでだから私のことも「詩織部長」でいいからね。」


 大塚部長がそう言い切った。

 しかも自分のことも名前呼びを強制してきやがった。


「すごくちゃっかりしてるんですね、大塚さん。」


 クールに日向さんが部長に突っ込みを入れている。


 最近、女子を名前で呼ぶ機会が多くなったからいいけど、思春期真っただ中の陰キャ男子に女子から名前呼びを求められるのってなあ。

 結構ハードル高いと思うんだけど…。


「ええ、わかりました。では詩織先輩と裕美先輩、雅さんってことで。」


 おい、景樹!ナチュラルに日向さんまで名前呼びですか!


「ううん、まあ、いいけどね。」


 如何に日向さんが凄いか、ということに今一わかってない景樹が、雅楽先生を名前で呼んできました。

 それを認める雅楽先生。

 俺は何という場面に遭遇してしまったのでしょう。


「じょ、女子を、名前で、呼ぶ?」


 あっ、一人フリーズした。


「わかりました。では、詩織先輩と、裕美先輩、そしてが雅楽先生。そういうことで。」


「白石君!それはやめて!先生呼ばわりもそうだけど、私がイラストレーターの雅楽だってことは、この場だけの秘密にして!」


 そうですね、確かに。


「ああ、OK!ごめんなさい、調子に乗りました。そういうことで景樹も須藤も、秘密ということで。」


「おお、わかった。」


「ああ、うん。日向さんの件は了解ですが…。先輩たちの呼び方は、僕にはまだ難度が高いので…。名字で呼ぶことを許してください!」


 先輩のお願いと自分の中の陰キャの壁がぶつかって、結局須藤は陰キャがまだ勝ってしまうようだ。


「ハハハ、ああ、いいよ。裕美に乗っかっただけだから。ねえ、裕美、それでいいんでしょう。」


「う、うん、光人さえ呼んでくれれば、それで……、あっ!」


「本当にこの子は、心の声が漏れちゃうほど、うれしいんだね。」


 詩織部長がギャル先輩をからかっている。

 でも、今のことって?


(お前は一生気付かなくてよろしい!)


(あっ、雑っ)


「いや、いやいやいや、今のは、違う、違うから!光人が名字呼べないって言うから、仕方なく、だから…」


「はいはい、わかったよ、裕美ちゃんは本当に可愛いね。」


 さらに部長が揶揄って、ギャル先輩は真っ赤になっていく。


 あれ、俺たち、何の話してた?


「有坂がこんなだからさ、続きは私が話すよ。」


 そうだった。

 日向さんのプロになった経緯だった。


「私が会ったのは、今世話になっている出版社の編集長で、大田原麻沙さんという女性。

 名前からだと男性の可能性もあったんだけど、私にくれたメッセから、丁寧な女性のイメージはあった。有坂とお姉さんには、逢う予定の喫茶店の後ろに座ってもらってて、いざというときに出てきてもらう予定だった。もっとも、最初にその大田原さんに会って挨拶した時に、中学生だとは思っていなかったようでね、驚かれたと同時に説教されたんだよ。」


「そうそう、「人の話を信じすぎ」とか言われてたよね、雅。」


 いまだ顔の赤さはひかないが、どうやら羞恥の際からは復活してきたらしいギャル先輩が補足した。


「まったく、声を掛けてきた人からは言われたくないよね、そのセリフ。」


 日向さんがそう言って笑った。

 もしかすると、はっきり笑った顔を見たのは初めてかもしれない。

 大人びて見える日向さんの可愛らしいその笑顔は、自分たちと同じ高校生らしく、幼さが垣間見れた。


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