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第34話 光人の感想

「熱心に見てくれてるよね、白石君。よかったら感想を聞かせてほしい。」


 やっぱりそうだよね。

 でも、他の4人はなんで俺を見てんの?

 さっきのなんだかわからない言い合いって終わった?


「日向さん、この少女と星の絵がラノベの挿絵ってのは知ってるけど、他の絵もそうなの?」


「ああ、そう思うか、やっぱり。この海の絵はそうだよ。神田明神ってペンネームで活動してる、「あの日の君は俺を忘れてる」ってタイトル。でも、この本はあんまり売れなかったみたい。最初の稿料は入ってきたけど、重版時に発生する印税は入ってこなかったから。」


 この爽やかな海の先にいる少女。

 綺麗だと単純に思った。

 その本の内容はまったくわからないけど、その本のストーリーに寄ったイラストだろうから、少し興味が惹かれる。


「この海の青と入道雲の薄い灰色、少女の纏う薄い紫のコントラストって、俺好きだな。」


「ホント!そう思ってくれる?私自身、いい感じの色合いだと思ってたんだよ!嬉しいな、自分が思ってたとこに好感触を伝えてもらえるのって。本になった時に、この絵は挿絵で、白黒になっちゃったから、充分に伝えられなくて悔しい想いしたんだ。」


 さっきまで真正面からの賛辞に、照れて顔を伏せていたけど、今度はテンション高く、いきなり俺の両手の上から日向さんの両手が包み込むように覆われて、そのまま上下に振られた。


 突然のことに、俺もびっくりして、されるがままだ。


「おい、雅!気やすく男の手を振り回すな!」


 まるで俺が悪い様な感じで俺が睨まれ、すぐに日向さんに視線を移した。


「早く手を放せ!」


 思いのほか強い言い方に、反射的に日向さんの手が離れた。


「あっ、ごめん。つい感激しちゃって。」


 そう謝ってるけど、俺を見ずにギャル先輩に謝っているようだ。

 今の流れだと、俺への謝罪が普通じゃないのだろうか?


(こいつは自分が鈍感系でないようなこと言っておいて、何で気づかない)


(言いたいことがあったらしっかりと言葉にしてほしいんだが、親父)


(私が口出すことじゃないからだよ)


 親父はそう言うとだんまりを決め込んできた。


「でも、日向さんの絵はやっぱり綺麗だよ。それに、なんか胸の奥底を揺さぶられ感じがある。どう言葉にしていいか、わからないのが悔しいけど。」


 俺がそういうと須藤がゆっくり頷いて口を開いた。


「雅楽先生のイラストは、単純に綺麗だけじゃないよね。まさか同じ高校生とは思ってなかったけど。」


 ボキャブラリーの足りなさが、本当に悔しい。


 このイラストたちだけでも、素人の俺にとっては素晴らしい!としか言いようがない。


 確かに振り返る美少女がヴィジュアルとして多くの人を惹きつけると思う。

 でも、他の5枚も十分に心が引き付けられる。

 そう、まさに「作品」だった。


 こんな機会はまずないはずだ。

 目の前にこんな見事な「作品」を作る少女がいることに、神に祈りを捧げたくなる。

 何の神に祈りをささげればいいかよくわからないが、なんといってもこの国には八百万の神々がいる。

 どこかに引っかかるだろう。


「その感動は解るよ。まだここまでのレベルではなかったけど、雅にイラストを見せられた時には、同じような気持ちになったからね。だからイラストの投稿サイトにアップすることを勧めたんだ。」


 先程までの人を刺すような視線の圧はすっかり消え、穏やかな笑みを見せて、そういうことを言ってきた。


「おかげさまである出版社の女性から連絡が来た時は、てっきり騙されてると思って有坂に連絡したんだ。」


 ギャル先輩の言葉を引き継いで日向さんが若干の照れと自信を漲らせた表情で言った。


 その言葉は、皆から確かにというような頷きで返された。


「それで私と4つ上の姉と雅の3人でその連絡をくれた女性にあった。本当なら雅の親御さんがあうべきなんだけどね…。」


 そこでギャル先輩が言葉を濁す。

 なんとなくその雰囲気から察することはできたけど。


「うちの両親は元々中学受験をほぼ強制的に私にやらせるような親だったから、勉強以外のことは全て咎められてきた。だから絵も、ほとんど色鉛筆で隠れて描いてたんだ。中学に入って美術で水彩画を始めてからは、宿題って嘘ついて描いてた。」


「その中でよくできた奴を見せてくれてたんだよ。雅の帰り道がちょうどうちの前だったていうのもあって、うちの部屋で見せてもらってた。だからとてもじゃないけど親御さんと同伴で会うっていう選択肢がなくてね。だからって私もまだ中学生だったから、大学生のお姉ちゃんに頼んだんだ。」


「ギャル先輩ってお姉さんいるんですね。てっきり一人っ子でやりたい放題やってたのかと。」


 いらぬことを言ってしまった。


「光人!お前は私を何だと思ってる!好き勝手な事ばっかりやってるわけじゃないよ!それと、そのギャル先輩って言い方、やめろ!」


 あっ、もう俺のことは光人って呼ぶことにしたんですね、ギャル先輩。


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