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第32話 須藤の感動

 全部で6枚の絵がテーブルに置かれた。


 基本的には風景画のようなものだが、1点だけ肩までのブラウンの髪の毛の少女が背中越しに振り向いて笑っている絵だった。

 「可愛い」をここまで昇華できるのか、というような表情がその絵の印象を決定づけていた。


 他の5枚の風景も、海、山、ビル街、田舎の水車小屋、そしてかなり硬質の金属に囲まれたような空間の中央に星が見える。


 少女の表情と、星を窓越しに見るようなこの絵には不思議な既視感があった。


(この絵って、構図かな?どこかで見長な気がするんだけど)


(私もそう思った。おそらくだが、何かの小説、ラノベの挿絵かなんか…。まさか写したってわけなければ、この日向って娘、光人も知ってると思う)


 俺は親父の言葉に、ある書籍が頭に浮かんだ。

 それほど売れたわけではないが、印象に残る作品だった。

 この少女は背中を向けて少年に告白に近い言葉をかけ、それに少年が照れながら肯定的な言葉を告げる。

 その言葉を聞いた時の少女の表情の挿絵だった、はず。


「日向さんって、もしかしたら…。」


 須藤がその後の言葉を言うべきか辞めるか、迷っていた。


 有坂先輩は当然知っていたはずだ。

 かなり底意地の悪い笑みをその口元に湛えている。


 俺が見つめていることに気付いた有坂先輩が、急に表情を崩し、顔を伏せてしまった。

 見ると耳が赤くなっている。

 俺が見つめていることに照れたようなんだが、あの底意地の悪い表情を見られたことに対してなのだろうか?


(このニブちんが!)


 急に親父にディスられた。


 大塚部長も、何か訳知り顔で須藤を見ていたが、ギャル先輩が急に顔を伏せたことに怪訝な視線を向けたのち、俺を見て変な笑顔になっている。


「もし間違ってたらすいません。日向さんって、イラストレーターの雅楽先生ですか?」


 ああ、そうだ!


 「宇宙の片隅のちっちゃなお話」の挿絵を描いていた雅楽先生のイラストにそっくりなんだ!


 その声に、明らかに日向さんお顔が硬直している。


 それとは対照的に、ギャル先輩はいまだ顔に赤みがあるけれども、須藤に向けた表情はドヤ顔だった。


「ブンは凄いな!この絵で雅の本職を当てちゃうなんて!」


 やっぱりそうなのか。

 だから自己紹介で自分にかまうな的な発言になるんだ。


「本当にイラストレーターの雅楽先生なの?「清楚系美少女はズボラ過ぎて、俺がいないと生きていけない」のイラストも雅楽先生だったよね。」


 俺が須藤の言ったことの補足をした。

 「清楚系美少女~」のヒロインの魅力をいかんなく表現するかわいいイラストを思い出す。


「まあ、この絵見たらバレるかな、とは思ったけど…。いきなり直球で聞いてくるとは思わなかったよ。」


 日向さんがかなり照れて、そんなことを言った。


「さすがにこのイラスト見せられたら、「宇宙の片隅~」思い出しますよ、先生!」


「うん、その通りで、雅楽っていう名前でイラスト描かせてもらってるけど…。その先生呼びはやめて!というか辞めてください、お願いします。」


 頭を下げながら、日向さんから頼まれた。

 でもな…。

 このイラスト描くような人を、普通にさん付けってのもな…。


「いや、そう言われましても、さすがにこの芸術的なイラストを描く雅楽先生は、先生とお呼びするしか選択肢がないのですが!」


 珍しく引かない須藤。

 リスペクトが激しすぎる!


「なあ、光人。俺よくわかんないけどさ。そんなに凄いの?」


 景樹が熱を帯び始めたこの部室にいたたまれない様な感じで俺に聞いてきた。


 うん、ラノベ読まなきゃ、この感覚は解らないよな。


「ああ、プロのイラストレーターなんだよ、日向さんが。佐藤もこの絵、イラストがうまいってことは解ると思うんだけど、この絵でお金を稼いでるってことだよ。」


「おお、それは凄いな。プロか…。同い年でそんな専門的な職業で稼いでるって、確かにすごい。」


 俺の説明に納得したようだ。


「わかる人にはわかるかなって、思ってたけど…。須藤君、凄いね。私が担当したラノベって、そんなに話題になってないのに。」


「一般的にはそうだと思いますけど。本の内容より、本の表紙で売れた本って感じがしましたから。先生の描く少女はどこか切なげだけど、力強さもありますよね。」


 須藤のテンションが上がり、女子の前でのどもることが完全になくなってる。


「なんか、自分で分かってるつもりだったけど、面と向かって言われると、照れちゃうね。」


 照れてる日向さん、なんか可愛いな。


 あれ、そう思って日向さんを見てたら、ギャル先輩の視線が俺に突き刺さってくる。

 どうして?

 俺なんかした?


「そうか、雅楽先生に、僕の挿絵描いてもらえたんだ…。だめだ、また泣きそう…。」


 憧れの人に、自分を認めてもらえてさらに自分の描いた物語のワンシーンを描いてもらえる。

 きっと、感情が溢れ出して止まらない状態なんだろうな、須藤は。


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