第31話 「魔地」概略
この回には、以前書いて投稿した「魔地」という小説をベースに話が進行します。
読まなくても解らるようにしたつもりですが、興味があれば以下のURLにアクセスしてみてください
「魔地」
https://ncode.syosetu.com/n2642hs/
ある新興住宅地が舞台。
この地には悪霊を封じ込めているという伝承が存在した。
その悪霊は昔、名のある術師により、この地に封じ込められたという。
そこには3種の神器、勾玉、鏡、剣がその封印を助けるように設置されていた。
だが、住宅地の開発に先立ち、勾玉と鏡が見つかり、文化遺産としてこの県の博物館に預けられていたが、剣だけは見つかっていない。
だが、その剣がいじめられっ子の小学生の主人公の男の子の手に渡る。
と同時に悪霊たちが蘇る。
その悪霊を、考古学を専攻する主人公の祖父が自分の体に集め主人公はその意志を持つ剣に操られ、その祖父を刺す。
悪霊の一部は消失するものの、その悪霊が剣から逃げる。
そして、主人公の両親の肉体を狙った。
だがその悪霊の伝承を理解していた両親は自らの命を囮にし、住む家ごと爆発する。
それを見ていた主人公の担任がいた。
この担任は自分のクラスで起こっているいじめを見て見ぬふりをした男であった。
主人公は残った悪霊の残差を完全に浄化するために、封印されていた土地でその悪霊と対峙するだが、そこで悪霊との共闘を選択した主人公は白と黒のまだら模様の剣を携え、自分をいじめたクラスメイトとそれを見て見ぬ態度を取った担任に向かい、復讐を果たすため、その学校に向かい飛翔した。
「ちょっといろいろ端折ったけど、そんな感じ。」
須藤が、物語の粗筋をしゃべり終わった。
「ああ、だからこの少年が握っている剣に白黒の蛇が描かれているんだ。」
俺がその絵に込められた意味に気付いてそう言うと、日向さんと須藤が同時に頷いた。
「ちゃんと読めばたぶんわかるんだろうけど、なんでその悪霊は、主人公の祖父や両親を襲うんだ?」
「ああ、それは、この悪霊たちを封じ込めた術師の子孫っていう設定。その血に呼ばれるってとこかな。」
「ああ、なるほど。そうか、細かいとこは解んないけど、その悪霊と、悪霊を封じていた剣の意思を完全に掌握した主人公が、復讐を果たす前で終わっている。その場面に日向さんは感銘を受けて、こんなすごい絵に仕上げた、ってことだね。」
そう言って日向さんに、その爽やかな笑顔を向ける。
耐性がないと一発で惚れそうな笑顔である。
「みんな、特に須藤君に喜んでもらえてうれしいわ。」
「最高だよ、日向さん。僕の中にはこの物語のヴィジュアルがあるんだ。でも絵にすることができない。本当は漫画を描きたかったけど、圧倒的に絵の才能がなかった。だから文章で伝えることにしたんだけど…。こんな風にしてもらえると、本当にうれしいんだ。」
その言葉を聞いてふとある考えが俺の中に湧き起った。
「日向さんは、漫画とか、描く気はないの?」
その言葉にいつもクールに見える日向さんが困ったような顔をした。
「今の須藤君の言葉で、白石君の言うこともわかるけど…。私にはちょっと無理かな。例えば、須藤君のこの「魔地」って作品で、挿絵を描くことはできる。でも漫画となると、この話からネームを起こして、コマ割り考えて、その一つ一つのコマの絵とセリフのバランス、祇園なんてことと、さらに演出なんて考えないといけなくなるんだけど…。私の描き方は、結構1枚の絵に集中するか気かとなんだよね。とてもじゃないけど、漫画を描く集中力はないな。」
言ってる日本語は理解できたが、意味はよく分からない。
つまり絵を1枚仕上げるのにかなり精神力を使うので、漫画のような描き方ができない、ってことかな?
「いや、これだけ描いてもらえれば十分。ちなみに、この絵が欲しいんだけど…。」
「うん、そのつもりで持ってきたから、是非持って行って。データーはうちのPCに入ってるし。」
「ありがとう、日向さん。」
須藤が日向さんに頭を下げた。
日向さんはそんな須藤ににこやかにほほ笑み、右手を差し出した。
「えっ、これは…。」
「ありがとう、須藤君。小説読ませてもらったってこともあるけど、私のイラストを褒めてくれて。握手してほしい。」
一瞬、須藤が固まった。
うん、女の子の手に触れるなんて畏れ多いこと、なかなかできないよね。
佐藤君が固まっている須藤の横に移動した。
そして無理やり須藤の右手を掴み、日向さんの右手を握らせる。
「女性が握手を求めてるときに、男性が拒否するなんて、マナー違反もいいところだぞ、須藤!」
「えっ、えっ、そういうもん?」
そう言いながら、無理やり握らせられた右手に力を入れたようだ。
「これからも、話が出来たら読ませてくれると、嬉しいな。」
非常に魅力的な笑顔を須藤に向けた。
須藤が俯き加減になり、小さく「よろしく」と呟いた。
その言葉に満足したように手を離した日向さんが、筒から他の絵を出し始めた。
「今のは、須藤君の小説に対する私の感想でもあったんだけど…。今度は、今まで描いた奴を数点持ってきたから、見てくれるかな。」
少し緊張気味に言う日向さんに、須藤が何度も頷いている。
俺と景樹も頷いた。
さらに有坂さんがなぜか胸を張っている。日向さんの今日持ってきた絵を知っているのだろう。
そんな態度をとる有坂さんに大塚部長が少しあきれ顔だ。
全部で6枚の絵がテーブルに置かれた。