第296話 昨夜の出来事
あやねるの笑顔を見ながら、昨日の事を伊乃莉に話したのか、ちょっと疑問に思った。
「そういえば、昨日のことは伊乃莉に言った?」
「ん?昨日のこと?」
「伊乃莉のその顔だと、あまり話してないの、あやねる?」
何のことかわからなそうな伊乃莉の顔に、俺はあやねるに視線を向けた。
「あ~、うん。ちょっと、いろいろあり過ぎて。瞳と花菜ちゃんとはどうしたらいいか、話はしたけど…。」
「来栖さんとも同じ部屋なんだ?」
「うん。女子は二部屋に割り振られてるから。」
「一体何の話よ!なんか仲間外れにされてる気がして、ヤナ感じなんですけど!」
その言葉に、景樹が小さく笑いだした。
「あっ、何笑ってんの、そこのイケメン君は!モデルの話、速攻で断るよ!」
「あ、いや、ごめん。なんか鈴木さんのそういう感じ、ちょっと面白くって。断るのはお願いだから、もうちょっと考えてからにしてほしい。」
確かに、こんな伊乃莉は見たことないかな。
でも、すぐに景樹の弱みを攻撃するところは、さすがだ。
「それで、もう一度聞くけど、何の話?」
おお、伊乃莉様は強心臓だ。
陰キャでは到底ハブられたと思ったら、すぐに穴倉を探して逃げ込むしかできない。
「昨日、いろいろあったんだ。そのことを伊乃莉に報告したのかどうか聞いたんだ。何も聞いてない?」
「聞くも何も、さっき一緒に外に出て、私の方から少しさっきの事とか、話しただけだもん。あやねるから聞く暇はなかったわ。」
「うん、いのすけの言う通りだよ、光人君。」
「で、何があったの?」
「こっちはこっちで、トラブルメーカーがいてさ。」
塩入の事をかいつまんで話した。
景樹が補足を入れるが、あやねるは露骨に嫌そうな顔で無言だった。
「前にも聞いたけど、塩入って奴、そんなにヤバいの、そいつ?」
「あやねるには危害を加えてはいないけどね。ただ、その眼鏡の女の子、来栖さんに対する嫌がらせ、酷いよ。今日の朝食に顔を合わせた時が問題だよ、な、景樹。」
何故かあやねるを見ている景樹に、俺は話を振った。
「あ、ああ、そうだな、その件だったな。」
そう言って俺と伊乃莉の方に顔を向けた。その表情に戸惑いの影が見えた。
「その件だが、……さっき光人に言ったよな、俺。」
「ん、……えっ、あの話?」
「うん。本人もちょうどいるし。」
そう言ってあやねるを見た。
その話はほんのさっきした話だ。
あやねるも景樹に見られて、少し緊張していた。
あの話、あやねるに頼むのか、景樹さん?
「光人が他にいい案があるなら、そっちにするけど…。」
うわあ~、すげえプレッシャアー!
当然俺に代案はない。
でもなあ~。
「ねえ、光人君。さっきから何の話しているの?佐藤君が、少し、怖いんですけど…。」
「そうね、ちょっと様子可笑しいよね。光人、何か隠してる?」
伊乃莉が疑わし気に俺を見た。
あやねるの嫌がる顔が目に浮かぶ。
でも、今後の事を考えると…。
「あのさ、あやねる。ちょっとお願いがあるんだけど、さ。」
胃が痛い。




