第28話 男3人 Ⅱ
景樹を連れて行く、か。
そのことにちょっと不安がよぎった。
部活動の見学に行ったときに、男子がギャル先輩、有坂先輩に追い出されていたことを……。
いや、それよりも重要なことを思い出した。
あの時は、景樹は部活に出なきゃいけないって言って、俺達と一緒にいなかった。
「なあ、須藤。景樹を連れて行って大丈夫か?」
「なんとも言えないんだけど…。一つ思い出したことがあってさ。」
「あっ、やっぱり思い出したよな。日向さんが俺たちに声を掛けた理由ってさ。」
「そうそう、ギャル先輩の絡みだもんな。あれって、確か佐藤君が始めだろう。」
「えっ、なんでそこに俺の名前が出てくんの?」
そう、日向さんがギャル先輩に拍手して、その後に拍手したのは、間違いない、景樹だった。
「ギャル先輩に拍手したのって。」
「えっ、拍手?」
「そう、部活動紹介でさ、電脳部だったっけ。ギャル先輩が変に照れた時に率先して日向さんが拍手してさ。」
数回瞬きをした景樹が、何か思い当たったらしい。
「あったな、そんなこと。でも、それが何で?」
「今更なんだけど、なんであの時、景樹は拍手なんかしたんだ?」
「なんでって、頑張ってる人がいて、でも変に頑張る人をおちょくる奴もいるだろう?だから自虐的な奴もいるじゃん。それに対して素直に応援の意味を込めてだと思うんだけど、拍手した奴がいる。ここでたった一人で拍手すしてると、逆に浮いてその応援してるやつまで貶めようとするやつがいるわけだ。」
ああ、なんとなくその感じ、想像つく。
「でもな、その一人に追従する奴が多く出ればそんなことは無くなるし、頑張ってるやつもその応援が力になるんだ。人の応援っていう善意は潰しちゃいけない。それに俺が続けば、お前らが続くのは解ってた。4人も拍手する奴がいれば、内心では応援しようとしてるやつって結構いるんだよ。絶対そういう奴らも拍手という応援側に回るはずさ。」
えっ、なんか、景樹って凄い、凄くいい奴。
この爽やかイケメンは、内面までイケメンじゃん。
「佐藤君って、なんか、思ってたより、いい奴だな。」
須藤がまじまじと景樹を見て、そう言った。
「おい、なに照れるようなこと真顔で言うんだよ。男に言われてもうれしくねえよ。」
あっ、本当に照れてる。
「いや、まあ、そんなことだよ。最悪でも4人の拍手なら様になるだろう?」
「そんなことまで考えて日向さんの後に拍手してたんだな。ちょっと感動してんですけど。」
「光人までなに言ってんだよ。別に、その時そう思って行動してんじゃなくて、いつもそう思ってるから、ああいうときに反射的にしただけだから。それに日向さんが拍手しなきゃ、俺はしてねえかんな。」
完全に照れ隠しだ。
さらに、いつもそんなこと考えてんのか、ってより感激を言葉にすることも出来たが、いい加減本論からずれてることも感じたので今はやらない。
何かの時に言える準備はしておこう。
「で、だ。その日向さんがギャル先輩、有坂先輩に拍手した時に、すぐに一緒に拍手してくれてありがとうって感謝されたんだ。」
景樹の眉が少し、ピクッて感じで動いた。
「日向さんがお礼を言うことも驚いたが、俺たちが続いて拍手してたことがわかったって?そんなに近くにはいなかったよな?」
「それは多分だけど、さっきの話。須藤が小説書いてるってことで覚えてたんだと思う。自分だけでも有坂先輩に拍手を送りたい。そう思ったら続いて拍手をした人たちがいた。そちらに目を向けたら須藤とゆかいな仲間たちがいたってことだろう。」
「なんだそのゆかいな仲間たちって?」
景樹が突っ込んでくれた。
よかった、スルーされるとちょっと悲しい。
「まあそれと、ギャル先輩とはその前に白石が胸元を覗いたりして絡んでたからな。」
おい、須藤!
別にわざとじゃないぞ!
覗いてない、視界に入っただけだ!
白い肌のふくらみと谷間、ピンクっぽい下着なんか知らん!
「その流れで日向さんの作品を見せてもらえるってことでね。」
そこでも一度景樹を見て、須藤に視線を移す。
「そうだよね。佐藤がこの中で一番、日向さんとギャル先輩から感謝されていいと思う。興味があるなら一緒に行こう。」
「うん、そうだよな。景樹が一番の功労者だもんな。」
そう言って俺は立ち上がった。
「でもさ、何で文芸部なんだ?それに部活、一応禁止だろう?」
「まあ、いろいろあってな。」
須藤が言葉を詰まらせ、誤魔化した。
俺もそこは聞きたい。
文芸部って、また有坂先輩に睨まれるのは、いやだなあ~。