第276話 景樹と今野さんとエロ瀬良と
湯月玲子。小さな愛嬌のある女の子。
だが、今日の行動、あやねるとの接触のタイミングが良すぎる。
須藤とぶつかった山村咲良。
その山村と学校でしょっちゅう一緒にいるとこを目撃された塩入。
来栖さんをなじる塩入の歪んだ嫉妬。
そもそもが同じ班の弓削さんがもたらした情報。
そのシナリオを山村咲良という女子が作ったという事。
でも、断片ばかりで、何が目的なのかが、全くわからない。
もしかしたら、単なる偶然なのかもしれないが…。
湯月さんに関しての注意をあやねるにしたけれども、強い反発を喰らうだけだった。
宍倉彩音という女の子は中学時代に痴漢に遭って、男性に対する恐怖心を持った。
だが、そんな彼女を助けたのは伊乃莉を含めての女子たちだったと聞いている。
男性に対する恐怖と一緒に、同性である女性に対しては単純に女性であるというだけで、特に相手が友好的な姿勢を見せているというだけで、信じてしまうのかもしれない。
この件に関しては早急に伊乃莉とコンタクトを取る必要がありそうだ。
「これまでの経緯から、来栖さん、須藤は臆病な男だけど、さっきの来栖さんを守ろうとした意気を認めてほしい。そして、塩入の言ったことを真に受けず、信じてあげてほしいんだけど……、いいかな?」
と爽やかイケメン佐藤景樹が来栖さんに問いかけた。
「あ、はい。大丈夫です。須藤君、ごめんなさい。」
あ~、も~、これだからイケメンってやつは!
来栖さんを惚れさせてどうすんだよ!
すでに時計が9時を回っていた。
就寝時間は10時。塩入と来栖さんの件は、須藤への冤罪の件も含めて落ち着いた。
とすれば、もう一つ聞いておかねばならない。
「それでさ、景樹。そっちの件はどうなったんだ?」
あまり、ストレートには聞けず、そういう言い方になった。
「そっちの件?」
俺の問いかけに、本気でわからない風であった。
俺の言葉の意味はすぐに瀬良にはわかったみたいで、言おうかどうしようか、迷ってる感じがありありとその顔に出ている。
でも、当事者でなく、きっと隠れて聞いていたはずだから、言えんわな。
「それって、白石君が作ってくれた時間のこと、でしょう?」
何といえばいいんだろう。
なんで今野さんがウキウキみたいに言って来るんだ。
もしかして、景樹が本題を切り出す前に、さっきの塩入と来栖さんのことがあって中断したのか?
それにしても、若干浮かれ気味。
「あ、ああ、その、件だけど……。」
ああ、という感じで景樹も声に出した。
「俺に高校で恋愛を楽しむことが無いことは伝えた。」
それって遠回しに今野さんを振った、ってことだよね。
で、なんでその態度?
「まあね、私も佐藤君を好きって言えてよかったんだよ。付き合うってことはできなかったけど。」
「それで、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
いや、失恋した直後って感じじゃないんですけど。
あやねるが複雑な顔になっている。
ちなみに来栖さんは全く置いてけぼり。
須藤は来栖さんの誤解が解けたことに安堵して、この会話に興味はなさそうだ。
いや、この場にもう一人いたんだっけ。
背の高いエロ瀬良と呼ばれている男子が妙にそわそわしている。
うん?
「今野さんはそれを言ったときにはかなり落ち込んだんだけど、ちょうど瀬良が隠れて聞いていることに気付いた。いい機会だから、ペットボトルの時の暴言を諫めて、謝ってもらおうと思ったんだよな、そしたら。」
「お願いだ、佐藤!それ以上は…、それ以上は言わないでくれ!。」
景樹がそんな瀬良を見てニヤニヤしてる。




