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第271話 研修室にて

 景樹に連れて行かれたのは2階にある研修室だった。


「ここなら他の人には邪魔されないよ。館内に暖房入ってるから、寒くないしね。」


 あやねるも一緒にいて、ここにうちの班、G3班のうち塩入以外が揃ってる。

 代わりに来栖さんがいて計7人。


「あやねる、ありがとう。後始末してくれて。」

「ううん、そんな事。でも来栖さんの服にジュースがかからなくてよかった。」

「うん、ホント、宍倉さん、ありがとう。でも本当に宍倉さんと白石君って、仲いいんだね。同じクラスにいて普段からそう思ってるけど、バス越しに見た二人の印象が強すぎて…。」

「ああ、あれか。光人が宍倉さんを泣かせたってやつ。」

「それ、確認しなくていいから。」


 思わず景樹にそう言ってしまった。


「あっ、それで思い出したよ。確かその話を聞きたがってた女子がいたよね、須藤君。」

「あ、ああ、そう、だね。」


 須藤がわかりやすくキョドッてた。

 そりゃあ、そうだよな。

 景樹たちと来栖さんの間にどんな話があったか知らんが、さっきの塩入との一件で、明らかに須藤に疑いの目を向けていた来栖さんに、まるで何事もなかったように声を掛けられたらどうしていいかわからない。

 うん、まさに陰キャの鏡のような対応に、俺は心の中で拍手を送った。


(変なとこで共感するんじゃないぞ、光人)

(陰キャとはかくあらん。素晴らしいぞ、須藤!)

(お前を誰も陰キャとは思ってないぞ。この「女泣かせのクズ野郎」光人君)

(親父、性格ワリいぞ)


 来栖さんが須藤の態度に、少し嫌な視線を送ってきた。

 女子って確かにその心を上手に隠して、対応できるって話、聞いたことがある気がする。

 やっぱり疑ってるってことなのだろう、この来栖さんの視線って。


「聞いてきた子、山村さんだったよね、須藤君。」


 あらま、そのきつい視線の意味はそういう事ですか。

 そうだったんですか!


「う、うん、そうだったね…。」


 ああ、須藤が完全に目を逸らしちゃったよ。

 景樹たちもちょっと疑いの視線を須藤に向けてきたな。

 塩入の言葉に、暗に山村さんと須藤が仲良くしてることを匂わせていた。

 いろいろな意味で須藤が追い詰められてるね、これ。


「なんか、確かに山村さんって、噂好きっぽいもんな。俺と宍倉さんの事も、面白おかしく想像して話してたって可能性は非常に高い。」


 別に須藤を庇おうってわけじゃないが、こんな状況で須藤に詰め寄っても、決して現状の正確な分析はできそうもない。

 まずは先入観を拭い去らないと、ちょっとしたこともその先入観からねじ曲がった結論を導く気がする。


「さっき須藤と話をして、来栖さんのお父さんの話は誰にもしてないって言ってたよ。塩入だけでなく、山村さんにも。なあ、須藤。」


 須藤が何度も頷く。


「それで、景樹に聞いたんだけど、わざとぶつかって来たって、本当?」

「たぶん。私、ジュース持ってたし、ぶつかるわけにはいかないなって、思って。塩入君はスマホに夢中で、こっちに気が付かない感じしたし。ちゃんと道開けたんだよ、私。でも急に折れ曲がるようにして私にぶつかってきたの!しかも肘を下から上に掬い上げるような感じで…。」


 それが本当なら、かなり悪質だ。

 最初から難癖をつけに行ったようなもんだな、それ。


「ただ、もし来栖さんを最初からターゲットにしてたとすると、なんでなんだろう?」

「来栖さんの父親が自衛隊、ってだけじゃ、弱いよな。」


 景樹の言葉に、俺はそう返した。

 景樹は頷き、他の人はなんか唸ってる。


「これは噂程度でしかないんだけど…、ちょっと聞いた話をしていいか?」


 瀬良が口を開いた。


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