第27話 男3人 Ⅰ
「さて、お前ら一体、宍倉さんを排除して、なにしようとしてんの?」
二人がいなくなるのを確認して、おもむろに景樹が言ってきた。
「いや、別に何も。なんか人を悪者呼ばわりはよくないよ、景樹。」
「そうだよ。別に宍倉さんがいると都合が悪いことなんかしないよ。」
俺は心の中で、あっ、と思ってしまう。
今の須藤の言い方、半分景樹の言ったことを認めているようなもんだ。
本人は気づいてない。
景樹の口元に笑みがこぼれる。
「そうか、宍倉さんがいると都合が悪いんだ、そうか。」
まるで悪の組織の幹部みたいな物言いで、須藤に聞く。
その言葉に須藤の顔が面白いように硬直していく。
「だから都合悪くなんかないって言ってるじゃないか!」
「都合が悪いから、そういう単語が出てくるんだろう。排除ってかなり強めの言葉を使った買いがあるってもんだ。」
ああ、やっぱりそうか。
変な日本語使うと思ったんだが。
「まあ、いいだろう。景樹があやねると伊乃莉に言わなきゃ問題はないよ、須藤。」
「それってもう認めちゃってるじゃん。」
「俺もなんであやねるがいるとダメか、いまいちわからないんだけどさ、日向雅さんってわかるだろう。俺たちのクラスメイト。」
俺はもう隠し事が面倒臭くなって、景樹にそう聞いた。
「ああ、なんとなく。背が高めのショートカットの子だよな。なんか他人を受け付けない感じの。」
「そう、その日向さん。前の週の部活紹介の時に声かけられてね。」
「さっき俺が言ったこと覚えてる?それ全然違う人じゃん。自分から声を掛けるタイプじゃないって俺の印象。」
「いや、俺だって景樹と同じ印象だったから、声かけられてびっくりしたんだよ。その理由が、須藤の小説を見たいってことだったんだけど。」
ギャル先輩がらみの話は伏せておくことにする。
ちょっとややこしくなるから。
「へえ~、じゃあ、光人じゃなくて、須藤に興味を持ったってことか。で、その日向さんがさっきの件に絡むわけだな。だけど、まさか日向さんが光人のことを好きになって告白するから、宍倉さんが邪魔ってことでいいのか?」
「「なんでそうなる?」」
俺と須藤がハモッた。
「そんな訳じゃないよ。日向さんが僕の小説を読みたいって言って、その代わりに彼女の作品を見せてくれる約束をしたんだよ。それでこれから白石と文芸部に見せてもらいに行くって話。」
「その話自体がよく解らないんだけど。まず須藤の小説を読ませてもらって、その代わりに日向さんの、その、作品?よくわかんないけど、それを見せてくれる。そこはは、まあ、いいんだけど…。そこに光人が出てくるのがまずわかんない。」
本気で分からないというジェスチャーで、俺と須藤を見る。
「うーん、ちょうどその話の時に、白石と宍倉さんがいてさ。一緒に見せてくれるって感じ?」
なぜそこで?がつく!
あれ、でも、確かに須藤にその作品を見せるという約束をしてたとは思うけど、俺とあやねるに見せてくれるって、言ってはいないよな?」
「それって、さらにおかしいよな、須藤。にもかかわらず宍倉さんがいると都合が悪いのか?」
「いや、よく考えると、白石にも、宍倉さんにも、日向さんはそんなことを言ってない気がしてきた。あれ?」
小首を傾げる須藤。
いかん、俺ももう考えるのをやめにしたくなってきた。
「本当によく解らないけど、とりあえず須藤と光人は文芸部に日向さんに会いに行くってことか?で、宍倉さんが来ると都合が悪い。で、その都合の悪いこと、宍倉さんが一緒にいるとまずい理由を君らは知らない。そういう事か?」
うわあー、景樹、すっげえなあ!
俺らがよく解ってないことを、的確に指摘してきた。
そう、なんで俺が呼ばれるのかがまず不明。
さらにあやねるを連れてきてはいけない理由も不明。
まあ、須藤の小説に刺激された作品についての感想を求められたから、そういう意味で呼ばれたのかもしれないんだけど…。
「そうだね、うん、その通りだ。自分でもいまいち消化不良のとこだったけど、そういう事か。ただ、そこらへんは、きっと、日向さんが説明してくれると思う。もしかしたらッてことは解ってるから。」
須藤が何故か自分で勝手に納得していた。
俺、まだわからないんですが?
(ヒント。文芸部というのかミソです、光人君)
(もう、鬱陶しいな…、えっ、親父解ってんの)
(ああ、大体な。しかし、光人ってモテんだな。羨ましい)
(意味が解らないんですが…。モテるって…)
「その話からすると、俺が行ってもいいのか?」
景樹が急にそんなことを言い出した。
「興味あんの?日向さんの事。」
「それもあるし、日向さんの作品って言うのも興味あんだけど、それよりも宍倉さんを越させないようにしてることに興味が湧いた。で、さっきからの話だと、男なら大丈夫じゃないかな、と。」
景樹を連れて行く、か。




