第264話 景樹との約束
今野さんとの例の約束。
つまり、景樹と二人っきりの時間を作るという約束だ。
「あやねる、その約束でちょっと確認をしたいんだけど、いい?」
「えっ、もしかすると、もう景樹君の了解取れたの?」
俺の言葉に、明らかに期待が先走り過ぎている。
まあ、その想像通りなんだけど…。
でも、その話をする前に、確認することがあった。
「今野さんって、まさかその時間に景樹に告白するとか、ないよね?」
「あっ、それはさすがに……。」
そこで言葉が詰まり、考えこみ始めた。
そのタイミングでいきなり告白はない。
そう言おうとしたのが、今野さんのあの行動を思い返して、もしかしたら、と思ったに違いない。
「これは本人じゃないとわからないけど、最低限、その時に告白を考えているようなことはあやねるには伝えていない。で、いいかな。」
「それは、確かに光人君の言う通り、だけど。」
恐る恐るというように俺の言葉に肯定しながら、俺にその愛くるしい顔を向けてきた。
今野さんは女バスで、友人もいるとは思う。
ただ、今夜の景樹の言動に少なからず、傷つくと思う。
それを労われるのは、今のところ、あやねるだけだ。
できればそこに伊乃莉がいてくれた方が…、いや、あんなに綺麗な見知らぬ女性はいない方がいいのだろうか?
自分のことを忘れている親友に、あれだけ熱い思いで友情を再構築できるやつなのだから、居てくれると心強いんだけど。
「あやねるの想像通り、景樹が二人きりで今野さんと会うことを決めてくれたよ。でも、きっと、今野さんが考えているような甘い楽しい時間は送れないと思うよ。」
俺が真剣で、でも少し悲しげないい方をしたせいだろう。
あやねるの表情が硬くなった。
何かを言おうとして、でも、声にならない。
あやねるの表情や態度がそんな感じであった。
「景樹は既に今野さんの好意に気付いているよ。だから、極力遠ざかろうとしていた。それで案に景樹が今野さんに興味がないことを伝えようとしてたらしい。でも状況が変わったんだ。」
「状況って…。もしかすると、ペットボトルロケット作成の時の、今野さんの瀬良君に対する当たりの強さってこと?」
「ああ。あやねるもその後の瀬良の態度、見ただろう。」
「うん。でも、私の字が汚いことをかばった発言だから、あんまり瞳さんには言いづらいけど…。ただ、言葉はきついけど、バスケ部の同期なりのコミュニケーションだと思ってはいたんだけど。」
「俺たちもそう思ってた。オーバーリアクションでの受けを狙ったと。ただ誰もその後、フォローを入れないんですねてるんだと思ったんだけどね。」
俺の言葉に、何か閃いたらしい。
「もしかして、瀬良君って…。」
「今野ひとみさんが、好きらしい。」
「ああ~。」
納得できたのだろう。
あやねるがちょっと暗い雰囲気になった。
「それを佐藤君も知っている?」
「瀬良を二人で引き摺るように部屋に連れて行ってそのことを確認した。」
「今野さんはそれを?」
「知っていたら、あそこまでの暴言は言わないと思う。みんながみんなそうじゃないとは思うけど。今野さんは…。」
「瞳は、そんな子じゃないよ。」
「つまりは、そう言う事じゃないかな?」




