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第261話 傷心の瀬良

 今野さんが瀬良を運ぼうとする景樹に絡もうとしていたが、流石に大男の瀬良には、今野さんは邪魔でしかなかった。

 そこまで景樹は邪険にしなかったが、この状況に今野さんは渋々退散した。


 俺と景樹でとりあえず部屋に運び、そのまま寝かせた。


「瀬良、大丈夫か?」


 景樹が横になってる瀬良に話しかけた。


「悪かったな、佐藤、白石。」

「起きてたのか、瀬良。」


 景樹が弱々しい瀬良に声を掛けた。


「精神的なものって、本当に体に現れるんだな。何とか手伝おうと思ったんだけど。」

「瀬良はあんなに綺麗な字で手順書、作ってくれたんだ。あれくらいはいいよ。でも、大丈夫か?夕食まで、そんなに時間はないが。」


 景樹の言葉に瀬良は力なく笑った。


「失恋なんて、中学時代にあったけど、こんな風にはならなかったな。」

「普通に告白して振られるのって、実はそんなにダメージってないもんだよ。」


 つい俺は瀬良の呟きを拾ってしまった。


「何言ってんだか。白石はそれでなくとも宍倉とイチャコラしてやがって。」


 怒ったような口調でも、その声は弱い。


「光人も中学には結構シビアなこと、あったらしいぞ、瀬良。その経験からだよ。俺も光人の意見に同意だ。」

「ん?」


 瀬良が小首をかしげる。

 別に可愛くはない。

 だが、やっと上半身を起こそうという気にはなったらしい。

 俺と景樹が胡坐で座ってる真ん中で、瀬良もやっと起き上がり、座りなおす。


「で、瀬良は同じバスケをやっている今野さんが好きだと?」

「えっ、そ、それは…。」


 景樹の突っ込みに、動揺を隠しきれない瀬良。

 あそこまで露骨に傷ついていれば、誰にでもそれくらい想像がつく。

 罵詈雑言を受けて大袈裟にパイプ椅子に座るまでは、リアクションでウケを取る、と見えなくもない。

 だけど、その後に全く動けなくなるというのはね。


「俺は、中学3年の時に付き合った人にひどい振られ方をして、受験に失敗した口だ。光人はもっとひどかったらしい。」

「うん、、ちょっとね。半引きこもり状態だったからな。」

「俺、どういう反応をしていいのか、マジ、解らん。」


 瀬良がぼやく。

 俺たちの告白を額面通りに受け取れば、15歳くらいの経験では何も言葉が出ないのが普通。


「好きな子、片思いの子に、あれだけ言われれば、そりゃあショックだよな。」

「まあ、瞳ちゃんが佐藤のことを好きなのは知っていたけど…。あそこまで言われると、俺、立ち直れん。」

「ああ、そうなんだろうな、あの態度。」


 景樹が瀬良の言葉に苦笑しながら、そう言った。


「ちょっと露骨、だもんな。」


 俺も思ったことを言った。

 だが、瀬良の告白を聞いちゃうと、二人っきりにするのって、かなり難しい気がしてきた。


「瞳ちゃん、ああ、このいい方はダメなんだっけ。今野は同じバスケ部で、春休みから顔を合わせてたんだよ。」


 部活がある程度決まってる奴らって、もう春休みからやってんだ。

 景樹から聞いていたけど、俺は知らなかった。

 もっとも、親父の事故でそれどころではなかったけど。


「可愛いとは最初から思ってた。背が高いのはバスケやってれば何とも思わないから。」

「まあ、そうかもな。サッカーは女子いないけど、マネージャーいるんで、ちょっと浮かれてる奴はいた。」

「それで、練習の休憩中とか、昼食の時とか、1年でよく一緒にいたんだよ。よく笑うんだ、今野。そんなところもいいなあって。ふざけて瞳ちゃんって呼んでも笑いながら「も~やだ」って感じでさ。そんなにいやがってるようではなかったんだよ。」


 その声が涙になった。


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