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第255話 山村咲良との遭遇

 そんな俺たちを見ているあやねるの目が冷たい。

 明らかにマウントを取りに行って自爆した?そんな感じだ。


「でも、日向さんて、思ってたより優しい感じした。でも、なんか引っかかる感じもあった。」


 泣き真似をやめてそんなことを俺に言ってきた。


 日向雅さん。

 イラストレーター雅楽先生。

 高校中退しての2回目の高校1年生。

 で、極力それを秘密にしたいと思ってる。

 それを感覚だけでわかるって、強コミュ以外の表現を俺は知らない。

 あ、違う。

 超能力者か魔法使いって奴なのか、俺の幼馴染は!


(さすがにそこまで行くと厨二病と言われてもおかしくないレベルだな、光人)

(この親にしてこの子あり、と返しておこう)

(自覚はあるという事だな)


 親父の横やりは無視することに決めた。


「須藤が日向さんを尊敬してんだよ。なんか訳ありっぽい感じらしいけど、変にそこをつかなきゃいい人そうだよ、たぶん。」


 俺がそう言った瞬間、須藤が凄い睨んできた。


「逆にコウくんのいい方に引っかかるけど、面と向かって訳アリって言われると、何も言えないな。今は込み入ったこと聞かないけど、後で隙を突いて須藤君に聞いてみるからね。よろしく、須藤君。」


 そう言って俺を睨んだ状態の須藤の肩を軽くたたいた。

 須藤の俺を睨む圧がさらに上がった。


「ほどほどに。」


 俺は須藤の睨みを見ないようにして、智ちゃんにそう言った。


 智ちゃんは俺の言葉に意地の悪い笑みを浮かべ、ペットボトルロケット作成の注意事項の張ってあるホワイトボードの班の所に戻っていった。


 その後ろ姿を見ていたら、こちらを見ていた日向さんと目があった。

 少し睨まれた。


「し~ら~い~し~。」


 須藤君はかなり起こっている模様。


 だがそんな須藤を無視するように、あやねるが俺を見てにっこり笑った。


「日向さんと光人君は仲いいもんね。」


 笑いからは暖かい雰囲気は全くなく、冷気が俺の心に流れ込んでくる。


「えっ、急に、何?」

「別に。」

「いやだな。なんか誤解がありそうだけど…。」

「べ・つ・に!」


 あやねるが不機嫌だった。


 単純に幼馴染の女子と気軽に喋ってることに怒ってるというものではないよな、これ。

 日向さんと俺が何かあるわけじゃないんだけど……。


 地雷を踏んだのは須藤だけではなかったな、うん。


「なんか楽しいことになってるな、光人。」


 楽しそうな顔に俺はむかつく。

 今野さんのことで煽ってやろうかと悪い考えが浮かんだが、さすがにそれをやると、この状態がもっと悪い方向に行くのが解りきっていたので、懸命に自分を抑えた。


 どんどん人が集まってくる。


 須藤も最低限のことを書き終えた様なので、体育館の方に行こうと景樹が促してきた。


「あっ、ちょっと僕、荷物取って来るよ。先行っておいて。」


 須藤がそう言って、宿舎に向かう出入り口に向かった時だった。


 入ってきた女子生徒と須藤が軽くぶつかり、女子生徒が尻もちをついた。


「ご、ごめんなさい。」


 情けない声が響く。

 俺は思わずそちらに向かって駆け寄った。

 景樹と瀬良が一緒に来た。珍しいことに塩入も近づいてきた。


 尻もちをついていたのはうちのクラスの山村咲良さんだった。


 いっしょにいた室伏がすぐに山村さんの手を取り引き上げるように立たせる。

 こんなところ、室伏が優しい男で、さらに力も強いことが窺える。


「大丈夫か、山村。」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう、室伏君。」


 すぐに山村さんの体調を気にした室伏に、お尻をさすりつつ山村さんが笑顔で室伏にお礼を言った。

 そして一生懸命謝る須藤に向いた。


「そんなに謝らないで、須藤君。私もよく見てなかったんだから。」


 何を考えているかはわからないが、そう優しく微笑を須藤に向けながら言った。


「本当にごめんなさい。もしなんなら、保健室まで行くよ?」

「ああ、そこまでのけがじゃないよ。お尻だからそんなに痛くないし。」


 さらに謝っている須藤にそう言葉をかけた。


「大丈夫なのか、山村さん。」


 景樹がその場に着くとすぐにそう言葉をかけた。


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