第252話 陸上部の佐伯君
笹木莉奈さんに佐伯君ね。
そう言えば下の名前はまだ聞いてないな。
そう思いながらも、俺は二人を見る。
「なんて失礼な奴と思っちゃったけど、1位と2位か。単純にすごいな。」
「まあ、本番がどんな奴らと組むかわからんが。それも1位捕りに行くぜ。」
「ホント狡いよね。佐伯はここのポイントん場所、全部暗記してんだから。」
「「えっ!」」
俺とあやねるの声が重なった。
「しょうがないだろう。中学の部の合宿、ここでやってんだぜ。長距離は知ってたらいやでも目に入るよ。」
「だからって全部覚える方が変人!」
「笹木に変人呼ばわりされるのは納得がいかん。暗記は確かに得意だけど、そんな俺を差し置いて、3年間一度も首位の座を譲ることないんだからさ。」
あっと、この二人は一体何を言ってんだ。
俺の後ろにいる班員の5人も、呆然とその会話を聞いている。
「ポイントを全部覚えていても、そこに書かれてるというか、貼られてるアルファベットはいつも変えられてんだから、実際に行かないとわからんのだぞ。しかも一人じゃなく、班で動くんだ。俺一人の力ではない!断固としてそれを言っておく。」
でもなあ。
場所知ってれば、俺達みたいに道隠されてても、関係ないってことだろう。
それはずるいんじゃないかと思うんだよね。
「あっ、ごめん。佐伯相手に何マジになってんだろう、あたし。まあ、明日は見てなさいよ。こっちだって、ある程度は場所わかってんだから。後は本番のコース次第。絶対負けない。」
「受けて立つ!」
佐伯君が胸を張って応えている。
ある意味、非常に仲がいい。
「そういえばC組でしたっけ。会計の永倉蒼汰君は。」
「うん、そう。まだ帰ってきてないね、奴は。」
誰なんでしょうか、その人は?
俺が変な顔をした事にあやねるが気づいた。
「ああ、笹木さんも永倉君も生徒会で一緒なんだよ、光人君。」
疑問に思ったことをあやねるは敏感に感じたようで、そう言ってきた。
「って言うと1年ではその3人?佐伯君は生徒会ではないってことでいいんだよね。」
「そうだよ。私も佐伯君は、今初めて会った。」
それでいきなりかわいいと言えるのか、この男は。
我々陰キャとは一線を画する存在だ。
とはいえ……。
何とも言えないんだが、佐伯君、どっかで見たことあるんだよな……。
さて、いつだったか。
この長身だから、入学式当たりで見てた可能性はある。
(あれだな、それ。中1の時の県大会に1万mで1年生ながら5位だったんじゃないかな)
(人の記憶を勝手にみんな!)
(だって、光人が思い出しそうにないからだろう?佐伯大勝くん、だろう?)
(ああ、そうだよ!思い出したよ!)
(それはよかった。息子のプライバシーを覗いたんで、ちょっとあれだったが…。役に立ってよかった。で、礼は?)
(はっ?)
(お世話になったら礼を述べる。基本だよな、光人)
(ありがとうございました!)
怒った調子でそう返したが、親父の心はまったく悪びれない。くっそお!
佐伯大勝。
中1の時から背が高かった。
ああ思い出したよ。
あの頃はまだ、親友だと思っていた三笠颯と県大会を見学に行って、すげえ奴がいるって話してた。
うちの中学で地区大会を勝ち上がる奴がいなかったから、本当にただの見学だった。
「佐伯大勝君?」
俺が笹木さんと仲良くしゃべってる彼に声を掛けた。
「あれ、俺って、下の名前、言ったっけ?」
不思議そうに俺を見てきた。
それはそうだよな。
知らない奴にいきなり名前当てられたら、驚いて当たり前。




