第25話 モデルの誘い Ⅰ
「鈴木伊乃莉さん、モデルに興味ないかな?」
景樹の言葉に、俺を含めて、目が真ん丸に見開かれた。
「モデル?私が?」
面食らった伊乃莉がオウム返しに言葉を返した。
「ぶっちゃけさ、鈴木さん自分が美人だってわかってるよね?」
とんでもないことを景樹が口ばしる。
いやあ、そんなこと、あまりにも露骨な質問、普通ぶつけないよね。
「いのすけ美人だよ、当然じゃん!」
ちょっと待ってね、あやねるさん。
なんであなたがその胸を自慢するかのように胸張って、ドヤ顔なんですか?
「うん、わかってるよ宍倉さん。周りからの評価でなくて、本人がどう思ってるか?ということを聞いてるんだけど。」
景樹の言いたいことは解る。
そうだよな、いかに自分のことがわかっていなければ、ああいうメイクってできない気がする。
景樹が見た伊乃莉は、それでも昨日の西舟野駅の改札で見た伊乃莉フルメイクver.に比べたら2段くらい落としてたし。
「私が自分で美人、なんて言ったら、えらい嫌味っていうか、なにこの勘違い女とか言われそう。」
伊乃莉はそう言って自分を軽く自虐して見せた。
いや、ごめん!
全然自虐になってませんでした。
「つまり、自分で自分の美しさを客観的に認めてるってことでいいよね。」
「まあ、そういう風に言われると、そう、としか言えないけど…。」
さっきの自信にあふれた言い方より少しトーンが下がった。
まあ、とりあえず自分が周りから見てかなり高く評価されている自覚はある、と認めたわけだ。
(彼女の立場なら、たとえ普通でも、持ち上げる奴は多いよね。特に両親を含めた大人によって。あ、でもご両親は逆に子供が変に上流階級ぶるのを嫌がるかもしれないな。特に母親は自分が後妻に入ったとか思ってると、厳しい躾をするかもしれない。伊乃莉ちゃん見てるとそんな感じじゃないけど)
(親父の言うことも、なんとなくわかるな。聞いてる話じゃ、あやねるのことが、自分より優位にある気がするし…)
「自分を客観的に見れるのは重要なんだよ、鈴木さん。でね、うちの姉貴、昨日一緒西船にいて鈴木さんのこと見ててさ。俺が知り合いなら、ちょっと声かけてくれって言われてんだよね。」
「そこのとこがわかんないんですけど!私が美人かどうかは別にして、モデルをやってみないかなんて言われたら普通、警戒するよね。」
「そりゃあ、道端でそう声を掛けられれば、ナンパか、変ないやらしいビデオ関係かって疑う気持ちはわかるけど…。ああ、そうか。鈴木さんにはまだ話してなかったっけ。」
急に景樹も思い出したようだ。
お母さんが芸能事務所をしてるって話は、伊乃莉の家から帰るときの話だ。
あの時、景樹の話を聞いたのは俺と静海だけだった。
「土曜の帰り道の話だから、あの話は俺と静海しか聞いてないよ。」
「ああ、そうだったな。完全にみんなに話してるかと、思い込んじゃったよ。」
「何の話?」
俺と景樹が変に納得してるから、全く何の話だか分からない須藤が口を開いた。
さっきまで何もしゃべらず、景樹と伊乃莉の美男美女の異次元の話を、自分には関係ありませんが、興味はあります、って感じで聞くだけだった。
「土曜に鈴木家のご令嬢にランチを招待されて、大きなお屋敷でご会食させてもらったんだけど…。」
「光人、なにその嫌味な言い方。」
ご令嬢がご立腹だ。
「すんませんでした。話を戻します。伊乃莉の家でうちの兄妹と伊乃莉の姉弟、それとあやねると景樹で伊乃莉んちで昼食をご馳走になったんだ。」
「凄い組み合わせだな、それ。」
「そうか。もっとも、伊乃莉には弟さん、悠馬君とうちの静海にもっと親しくなってほしいという魂胆があってのことなんだけど、まあ、それはいいんだけど。その帰り道で俺と景樹と妹での雑談で出た話だから。」
そう言いながら景樹を見ると、眼があった。
(必要以上は話すなよ)
(了解)
俺と景樹の間でアイコンタクト。
「景樹の家族の話になったんだ。」
「それが何か、さっきのモデルの件と関係あるの?」
伊乃莉が、なんか少し不機嫌になりながら聞いてくる。
その横のあやねるも同じように不機嫌。
なんで?
(単純だろう。光人と佐藤君が自分たちに隠れてこそこそと知らない話をしてるから)
(理不尽な!)
「大ありなんだな、これが。景樹のお母さん、芸能事務所を経営してるらしい。」
「「「ええ~」」」
3人が一緒に大きな声を出す。
周りにいた人たちがその声に一斉にこっちを見てきた。
恥ずい。
「まあ、そんなとこ。で、うちの姉貴、JULIって芸名でモデルやってんだよ。」
「えっ、ちょっと待って!それって現役大学生で、ファッションモデルの、あの、JULIさん!」
おお、景樹のお姉さまはそんなに有名人なのか?




