第247話 ミニオリエンテーリング Ⅵ
俺はさすがにその岩を動かす気はなかったが、周りの草を足で踏みしめるようにして、あたりを見た。
あった。
かろうじて道と言っていい、土が踏みしめられた跡。
その先まで続き、微かに赤と白の三角形のポイントらしきものが目についた。
「おっしゃあああ!あったぜ、佐藤。あれ、間違いないよな!」
瀬良も見つけたようで、数歩後ろにいた佐藤に呼び掛けた。
佐藤はすぐに瀬良のいるところまで来てそのポイントを確認。
手元の地図と見比べる。
そして、大きく息を吸ったかと思うと、盛大なため息とも取れるように息を吐いた。
「ああ、間違いなさそうだ。」
「うっし、ちょっくら行って来るわ。」
瀬良はそう言ってその岩に手をかけて飛び越える。
すんなりとその岩を飛び越える姿に「足の長いやつはいいよな」と闇須藤がその顔をのぞかせて毒づいていた。
「ちょっと、俺も行って見てくる。」
俺は闇須藤を横目に岩の脇に隙間があるのを見つけて、そこの草を払いつつ歩きだす。
「あっ、私も…。」
俺についてきそうなあやねるを目線と手で制して、俺は岩の脇をすり抜けて瀬良を追った。
あやねるは俺の所作に気付いて不満げではあるが、その場にいてくれた。
「男子二人行けば大丈夫だよ、彩音。ここで待っていよう。」
あやねるにそう声を掛ける今野さんに安心しつつ、結構なスピードで獣道のような場所を先に行く瀬良。
その背中を懸命に俺は追いかけた。
「よし、間違いなさそうだぜ、白石。」
ポイントの近くまでの坂道を一気に駆け上がっても、瀬良は息が全く切れていない。
これだから運動部の人間は嫌だ。
俺もここ最近、家の周りを軽くジョギングしているのだが、サボりがちだし、ついこの前まで引きこもりのような生活でもあったから、少し息が切れていた。
陸上部だった時から優に1年半は過ぎている。
「はぁ、はぁ、はぁ。早えな、瀬良は、はぁ、はぁ。」
「情けねえなあ、白石。結構いい体してんだから、どっか運動部は言った方がいいぞ。」
いい身体、などとエロ瀬良に言われて、思わず胸を両手で隠すようなポーズをする。
「俺、そっちの趣味、ねえぞ。」
「バ、バカ野郎!俺だって男に対してそんな目で見ねえよ!俺のエロい目は可愛い女子専用だ!」
「いや、そんなことを胸張って言われても…。」
俺のリアクションに変なテンションで返してきた瀬良。
いや、おかしいぞ、その自分でエロい目とか言うの。
「いや、コホン、これが4つ目だな。」
急に自分の発言に自分で可笑しいことに気付いた瀬良が、話を逸らした。
「あとひとつか。えっと、Eだな、これ。」
「Eで間違いなし、っと。で、白石、さっきはありがとうな。」
「いや、別に礼を言われることじゃないよ。瀬良の言ってることが理に適ってただけだ。景樹が変に責任背負って、見えるものも見えなくなってただけだ。」
「確かにそうなんだけどさ。俺もちょっと熱くなっちゃって…。ああいう時はしっかりと冷静に意見を言わなきゃならなかったのに。」
「それが今は解ってんなら問題はないよ。景樹もいつもの調子なら、瀬良の言ってることに同調したんじゃないかな。でも一応自分がリーダーっていう意識があって、学校側も安全優先っていう固定観念に縛られちゃってたから。まさか、道が隠されてるなんて思わなかったんだろう?」
今来た道を見下ろす。
残った5人が見えた。




