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第240話 あやねるのお願い Ⅱ

 食べ終わって、紙の食器などは捨て、調理道具を洗った。

 火の始末の確認をしていた頃、何食わぬ顔で塩入が返ってきた。

 瀬良が何か言いそうになっているのを景樹が止めている。


 クラス単位で担任の所に集まった。


「何とか、全員が食事をとれたようでよかったよ。たまに、完全に炭にしたりした班のためにパンが用意されていたが、それは我々引率の教員の夜食になる予定だ。」


 そうか、やっぱり失敗する人たちもいるってことだ。

 ある意味、家で食事を作ってくれる人に感謝の気持ちを持たせるってことも、この旅行の目的だったのかもしれない。

 で、うまくいかなくて悪態つく奴もいると。

 塩入のように…。


「この後、30分くらいしたら、入寮式をしたところに集合。班ごとで3日目の他クラストのリハーサルみたいなミニオリエンテーリングするから。本番は2時間から3時間くらいかかるけど、今回のは1時間くらいでできる奴だ。これは今までやったことのないもののための練習と思ってくれていい。だからやったことある奴は、変にできない奴を煽ったりしないように。何かわからんことあったら、教職員に聞いてくれ。3日目は、それこそ初対面の人間でチーム組むことになるからな。それだけで結構疲れると思うんで、解らんことは今日中に無くしといたほうがいいぞ。じゃあ、そう言うことで、いったん解散。」


 岡崎先生の言葉でクラスの連中が、それぞれ部屋に戻り始める。


 と、俺のジャージの袖が誰かに引かれた。


 振り向くと、あやねるがいた。


「あのね、光人くん、お願い…。」


 ああ、そう言えば、そんな話していたような気がした。

 が、内容が想像つくだけに、あまり突っ込まなかったんだよね、景樹の手前。


「うん、そう言ってたね。じゃあ、ちょっとそこのところで。」


 宿泊所の脇の少し隠れるように建物の陰の場所に誘う。


 どうも、誰かの視線がある気がしたが、振り向かずにあやねるを誘導する。


「なんか、今、玲ちゃん、ううん、湯月さんが見ていたような…。」


 あやねるの呟きに後ろをふり向いたが、もう誰が自分たちを見ているかはわからなかった。

 みんなが玄関に向かって移動している。


 ただ、オリエンテーリングのための集合時間までは20分くらいはありそうだ。

 あやねるのお願い、大体想像はついているが、その話を聞くくらいの時間はある。


 宿舎の建物の横側に移動したら、そこにちょうどいい具合のベンチがあった。

 その建物の横には裏口みたいなドアもあって、さらに奥に行くと、ちょっとした庭、いや庭園ぽいつくりの場所があった。

 そこまで行くと、逆に宿舎の窓から見られるような感じだ。


 ちょっと戻って、そのベンチに二人で腰かけた。


「それで、相談って今野さんのこと?」

「ああ、まあ、そうなんだけど…。」


 中身について、煮え切らない態度のあやねる。

 あやねるも景樹が今野さんを避けているということがわかっているんだと思う。

 だからこそ言いづらい。


「旅行前に、瞳に、あ、ううん、今野さんに頼まれたんだよね、佐藤君のこと。」


 あやねるが今野さんの名前を言い換えたのは、俺に「瞳」という名前がわからないんじゃないかというとこだろう。


 景樹とのこと、頼まれちゃったかあ。

 その時点で、きっとあやねるが景樹が女子に対して距離を取っていることに気付いていたんじゃないかな。

 でも、今野さんの迫力に、つい負けてしまった。

 そんな想像が出来た。


「今野さんが、何とか景樹と二人っきりになる時間を作ってくれないか、って頼まれたんだろう。」

「えっ、なんで分かるの?」


 あやねるが言おうとしてたこと、そして、言いづらかったことを、俺が言ってみた。

 やっぱり、どんぴしゃり、だった。


「なんとなくね、あやねるの挙動を見ていて、やけに景樹のこと見てるなって思った。ちょっと、嫉妬してしまいそうになったよ。景樹は顔もイケメンだが、心もイケメンだ。惚れたとしても不思議じゃない。」

「そんなこと、あるはずないよ、だって、私は……。」


 その後は声にならなかった。


「でも、そんな好きになったって感じじゃなかった。たまに今野さんが、あやねるをけしかけるような仕草してたし。」

「よく見てるね、光人君。」


 そう言われて、俺の顔が少し熱くなる感覚が湧いて来た。

 いろいろな感情が俺の中で暴れてる。


「そんなことを考えて、今野さんが景樹に結構行為のアプローチをしてたの、知ってたから、あやねるに何かを頼んだんじゃないかって思ってね。で、もし頼むとしたら、あやねると仲が良くて、景樹とも親しく話してる俺がターゲットになった。そう感じたんだ。」

「むっ、光人君、鋭すぎだよ。」


 そう言って俺の肩をはたく。


「その通り。瞳から何とか佐藤君に接近したい。この旅行中に二人きりになる時間を作ってほしい。代わりに光人君と私の二人の時間を作ってくれるって…。」

「ふむ。となるとこの時間は今野さんが作ってくれたってこと?」

「それは…、違うね、うん。」

「ってことは、あやねるには何のメリットもない、ってことだよね。」

「それは、本当に解ってるんだけど…。変に断ると、私がクラスから浮いちゃう気がするんだよ。」


 それは充分に理解できた。

 高校生なんて中学の延長だ。

 何らかのすれ違いが、すぐにいじめに発展する。

 いやというほど、解っているんだ。

 簡単ではないが、基本はやられたらやり返すのが一番だ。

 その結果、簡単には手を出すことが出来なくなる。

 いじめの対象は何をされても抵抗しない奴。

 つまり、いじめてる方に被害が来ないことを安心して、弱者を(ナブ)るわけだ。

 そして、教師は、基本強い力の味方なのだ。


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