第24話 弓削佳純 Ⅰ
部活がないと何をしていいかわからなくなるのは、ちょっと自分でもどうかと思う。
学力テストとやらがあるせいで部活が禁止になった。
テニスは以前からやってるから、部活のない時は近くの大きめの公園で軽くランニングしたり、壁打ちをしたりしている。
テスト勉強が大事なことは解ってはいるが、今回ののテストはそんなに勉強をしなくてもよさそうだし、もともと勉強自体も好きじゃないから、この私がやるはずもなかった。
といっても付き合ってくれそうな友達もいなくて、仕方なく受験の時の参考書を引っ張り出して、パラパラ見る程度。
ニッシ―を誘ったけど、今日は中学時代の友人に会うとかで妙にはしゃいでいた。
きっと白石君もいるのだろう。
この前の地下鉄ホームでこっぴどく振られてたように感じたけど、それとこれとは別、って感じなんだろうな。
白石光人。
本当に何者なんだろう?
前にニッシーに聞いていた少年と、あまりに雰囲気が違って、少々戸惑ってしまう。
入学前に父親を事故で亡くした可哀想な少年。
そういうイメージがどうしてもわかない。
何かもっと過去になんかありそうなことをニッチーは匂わせていたけど、やけに大人っぽい雰囲気がしばしば垣間見えちゃうんだよね。
それ以上に宍倉さんの態度は異常だとは思うけど…。
そこにニッチーが異常な反応してんだよね。
なんとなく中学時代になんかありそうだけど、さすがに私がつつく立場にはないしな。
ニッシ―は本当にいい子だと思うけど、あんなに暴走すると、うまくいくものもうまくいかなくなるんだよね。
私には経験ないけど、中学時代の部活でそれなりに巻き込まれて迷惑を被った身としてはなあ。
ニッシ―はよく周りが見えて、気の付く子だ。
明るいし、人の悩みに真摯に答えてる姿は好感が持てるけど、いざ自分のことになると、そのバランスが崩れるらしい。
白石君のお父さんの事故で、何か力にならなかったのか、ちょっと遠回しに聞いた時には、白石君の状態にどう対応していいかわからないという答えが返ってきた。
はあ、へたれだなあ。
そう思って、ため息ついちゃったもんなあ。
こう言っちゃなんだけど、好きな人がへこんでいる時こそ、寄り添わなきゃいけないのに、ね。
なんて、わかったように言う私は、全く恋愛関係はナッシング。
すべて、少女漫画の矢沢新先生を心の師として仰いでいる状態。
本当に好きな人とやらが出来れば、こんな気持ちも変わるんだろうけど、今のところ、クラスにも、部活にもそれらしい人はいないなあ。
ビビッと来る人って、結局経験しないとわかんないもんね。
まあ、男の子に関しては今のところ、塩入っていう子が要注意人物というくらいかな。
テニス部にも漏れ聞こえてくるくらいだから、この春休みの先行練習で、なんかやらかしてるってことだろうから。
まあ、それよりも、女子だなあ、問題は。
あのクラスだと宍倉さんの行動もどうかと思うけど、変に噂をばらまいている山村咲良って子。
どうも演劇部に入部届を出したらしい。
今は学力テストがあるってことで、活動自粛中だけど、なんかトラブルメーカーになるような気がする。
別にたいした理由はないけど。
でも、あの噂好きと、それに盛り込みして、拡散する手口は、なんか手馴れてるし…。
それに、どうも自分がちやほやされてないと、我慢ならない感じ、あるんだよね。
特に生徒会書記の柊先輩が来た時のあの顔!
みんな、読モの先輩ってことで憧れの表情だったのに、なんか憎しみに満ちた顔だった…気がする。
まあ、これは私の偏見だけど。
あれだけ整った顔をしていると、そんな感じになるのかな。
それにしては、柊先輩なんか、ほとんど女神級の美しさでも、腰が低いというか、フレンドリーというか…。
これも白石君のせいだろうけど。
でもそう考えると、あの女神さまに対して、ああいった態度が出来るのは、やっぱり大物なのかな。
普通の男子は、完全に心を鷲掴みにされてる感じだったのに。
なんか、まだ1週間たってないけど、えらく濃密な時間が流れてんな、あのクラス。
ああ、そうだ。
テスト終わったら親睦旅行かあ。
憂鬱だな、あの山村咲良といっしょなの…。
同じ班の男子が山村さんの言う通りに動いてるから、楽といえば楽だけど。
同じ部屋で寝泊まりするんだよね。
まあ、ニッシ―が同じ部屋だから救われるけど。
あの女、変な事考えてなきゃいいんだけど。
私に火の粉が飛んでこなきゃいいけど、白石君の絡みでなんか言ってくると、絶対、ニッシ―が突っかかるもんなあ。
私は見ていた参考書を閉じて、大きく伸びをした。
特進クラスって、楽なのかな。
和歌子はのほほんとしてたけど…。
いや、あっちはあっちで大変そうだ。
勉強漬け、だもんね。
とりあえず、私はなんとかうまく立ち回っていこう。
いつも通りに。




