第234話 大江戸の活用法
一通り語ると、伊乃莉が時間を見た。
まだ集合までには多少の余裕がある。
「う~ん、いじめられていた光人がそう言う大江戸の家庭環境に言及するってことが、すんごく違和感ありまくりってあるけど…。もしそれが本当なら、もしかしたら、多少はいい方向に行くかも、何だけどな。」
伊乃莉が少し考え込む。
単純に大江戸が少しは包丁が使えるって話なんだけど…。
「ちょっと、ミッチョン呼んでくるから、少し待ってて。」
そう言って伊乃莉が急に駆け出して女子の集団に向かった。
「え~と、伊乃莉って、結構足早い?」
「うん、そこそこ。ミッチョンって、大木さんの事ね。さっきも、伊乃莉が大江戸って人のことで大木さんが泣いてたって言ってたからね。ここまでくるバスの中で何があったのか、少し興味があったりするんだよね。」
まあ、確かに。
普通ならバスの中にいた2時間半。
単純にしゃべらなければそれでよさそう、って考えるのがコミュ障なんだろうな。
「おまたせ!」
うわ、はやっ。既に大木さんを引き連れてきてるよ、伊乃莉さん。
「ミッチョン、バスで隣だったらしくてね。一応、この親睦旅行で班で行わなければならないことを説明して、何ができるか聞いたらしいんだけど。」
「うん、そうしたら何も出来ねえから。お前らでやっとけって…。」
「信じられんことをいう奴だな。そんな態度、ずっととってたらすぐ退学させられんじゃないか?」
まあ、退学はなくとも、心証は悪いよな。
でも、大木さんは凄いな。
一生懸命頑張ってる姿を想像して涙が零れそうだ。
「で、光人がさっき言ってた話なんだけど。」
「うん、大木さんに一応伝えておこうと思ってね。あいつ、すんげえひねた性格してるだろう。どうやら家庭環境が大きく影響してるんじゃないかって、生前親父が言ってたんだよ。」
正確には、死後から3か月ほどたった、ついさっき聞きました。
「奴の母親が離婚と再婚して名字が変わったりしてるらしいんだけど、離婚してしばらくは母子家庭で、あいつの母親はかなり頑張って、生計を立てていたらしい。大江戸が一人でいる時間が多かったんだけど、そういったこともあって、そこそこの料理は出来たらしい。包丁の使い方なら大丈夫なんじゃないかなって、その話を思い出して、そんなことを想像したんだよ。」
「それって…。」
「うん、全くの想像だけど、家事手伝いはやってたのは間違いないと思う。だから、ね。大木さんとか、他の女子で、ちょっと包丁で野菜や肉をうまく処理できないような芝居して、ちょっと大江戸に頼ったらどうだろう。」
俺の言葉に少し考え込むように大木さんは黙っていた。
「うん、そうだね。何もしないよりはいいかも…。それで拒否るようなら、メモしておくよ。頼んだけど断られたって。」
ちょっとだけだけど、大木さんの顔が明るくなっ聴な気がした。
「うん、それでいいんじゃないかな。大木さんたち班の人が努力したけど、大江戸はダメだったって。」
「頑張ってみる!白石君ありがとう。」
大木さんはそう言って、自分たちの集まりの方に行った。
「私も、もう行くね。本当、アドバイスありがとう、光人。」
伊乃莉もまたF組の所に戻って行った。
ちょっと、冷たい視線を感じて、あやねるを見る。
「なんかした、俺?」
「別に。本当光人くんって頼りになるよね。他の組の女子には特に‼」
俺はなんであやねるに怒られてるんでしょう?




