第233話 入寮式
入寮式はこの親睦旅行の責任者である学年主任を務める1-Aの担任の山脇先生の挨拶と注意事項で始まった。
次に2-Bの担任の志田由衣先生から今回の旅行のスケジュールが再度確認された。
その後で各クラスの代表、つまり各組の学級委員長から意気込みなり目標なりが、発表された。
塩入が不貞腐れていたのは、もちろん俺があやねるという事が気にくわないという事もあるんだろうが、この人前での発表がプレッシャーになっていたようだ。
そうは言っても、岡崎先生が放っておくはずもなく、内容はそつがない、つまり面白みのない内容だった。
バスの到着も遅れたという事で入寮式は終了。
各自体操着に着替えてカレーの調理に移る。
お袋にカレーの調理の行程を聞いてきたが、カレー自体はさして難しいものではない。
問題は火おこしと、飯盒炊飯だと言われた。
飯がまずけりゃ、全てが台無しとなる。
部屋で着替えを終え、野外の調理場に向かった。
何はともあれ、天気が良くて助かった。
この3日間は天気がもつようだ。
ペットボトルを飛ばすにしろ、オリエンテーリングをするにしろ、雨の中ではごめんこうむりたい。
調理場の確認のために外に出た時だった。
あやねると伊乃莉が一緒にいて、何か喋っている。
(そう言えば、光人に伝えておかないとならないことがあった)
急に親父が話しかけてきた。
その口ぶりが緊急性の高いものというわけではなさそうだったが、どうも伊乃莉を見て思い出したような雰囲気があった。
(例のF組の調理の班組で大江戸君と一緒になって困ってる子がいたよな)
(うん、まあね)
(でだな、その大江戸君についての追加情報を思い出したんだ)
(追加情報?)
(大江戸君とこの家庭事情って知ってるか?)
(なんとなく。離婚がどうとか。)
(小学生の時に両親が離婚してる。小学校の時は結構母親が頑張っていてね。今の旦那さんが務めている印刷所にパートで言ったらしい)
(それで知り合って再婚?)
(いや、それはまた違うらしい。大江戸君のお母さんは印刷所勤務で、お父さんは営業で、まず会うことは無かったようだ)
(それが、またなんで?)
(いや今はそれはいい。それよりもお母さんの方だ。母子家庭になった時、そのパートだけでは金銭的にきつかったようで、夜は清掃のバイトもしていた。さらに朝刊の配達もしていた。内職もしていたらしい)
(それ、体壊したりしなかったの?)
(運良く、というか子供のために必死だったんだろう。だから、大江戸君はそんなお母さんのために家事を結構やっていたらしいんだ)
(それが何であんなにひねくれたんだ?)
(それもまた別の時に話してやる。という事で、実は大江戸君はある程度料理が出来る。)
(えっ!マジ?)
(本当だよ。後は、その事をうまく班の子、出来れば女子からおだてるような形で頼めば、うまくいくんじゃないか?)
(ほお、確かに…。伊乃莉と大木さんに伝えてみる。なんか、大江戸のいいところを伝えるっていうのは抵抗あるけど、大木さん困ってたからな。うまく行けばもっけものってとこか)
(そんなとこだ)
俺は喋っている二人に駆け寄った。
「どした~。」
「ああ、光人君。」
「やっほ~、光人、おひさ~。」
「さっき会ったばかりだと思うんだが…。」
「まあまあ。」
あやねるが苦笑いしながら言った。
「ちょっと、例の彼についてね、話してたんだよ。光人君をいじめていた奴の話。」
まあ、朝方は聞いてないって怒ってたけど、やっぱり覚えているよね、あやねるさん。
「俺も思い出したことがあって。あんまりあいつの話はしたくないんだけどさ。」
俺はそう言って、ついさっき親父が言っていたことを、あやねると伊乃莉に語った。




