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第221話 旅行の朝 Ⅳ

 津田川駅で降りて、すぐ近くの大学の脇にバスが8台停まっていた。


 前のフロントガラス上方に「日照大付属千歳高校一行様」となっていた。


 その近くには駅からも生徒や先生たちが見えた。


 改札を抜け、智ちゃんとそちら側の階段に向かうと、見慣れた女子二人の姿があった。


 あやねると伊乃莉。

 同じようなキャスターバッグを持って、人を待っているようだ。


「あやねる、伊乃莉、おはよう!」

「おはよう…。」


 俺が元気よく言うのに対して、智ちゃんはいつもとは違い、控えめだった。


「あっ、光人君と西村さん。おはようございます。」

「おはよう、光人と、えっと、智子さん、だっけ。」


 何故無理して下の名前で呼ぼうとするかな、伊乃莉さんよお。


「いや、確かにそうだけど、あなたとはそこまで親しくないよね?」


 それはごもっとも。


「え~、それは連れないんじゃん。光人のあの過去の話と、光人の親友、慎吾君だっけ、の彼女の誹謗中傷に立ち向かった仲じゃない。」


 その言葉に、あやねるの表情が一変して、凄い表情で伊乃莉を睨んでる。

 どうやら、その言葉に反論しようとした智ちゃんも言葉を飲み込んだようだ。


「それって、どういう事かしら?」


 笑おうとしてんだろうけど、からくり人形みたいな首の動きと、顔にシャドーがかかった笑みは、うまく映せばホラー動画が出来上がりそう。


 俺はちょっと口をはさめない状況で、二人の動きを見守ることにした。

 君子危うきに近づかず。

 そんな俺を智ちゃんが少しあきれた視線をよこす。


「いや、あのね、あやねるさん。この前、説明したよね。先週光人とあってた後に、光人の幼馴染の智子ちゃんや、慎吾さん、その彼女とあったって…。」

「うん、聞いたけど。あくまでも、光人君といのすけがあっていたわけを聞いて、その後のことはかなり簡単に説明されたような気が。」

「あれ、そうだっけ…。」


 伊乃莉が押されてるのは珍しい。

 だが、そろそろバスの集合場所に行った方がいい時間ではある。


「あとでその辺のことはもう一度説明するからさ、早いとこ集合場所に行こう。」


 俺がそう言うと、またギギギと音がするように俺の方に顔を向けるあやねる。


「わかった。説明はちゃんとしてね、光人君。」

「あ、ああ、解ってるよ。」


 そう言って何とかあやねるを促し、他の二人とともにバスの所に行った。


「前から、ABCと並んでるから、自分のクラスのバスに行ってくれ。」


 バスの先頭にいた学年主任件A組の担任がそう言った。

 名前は確か山脇だったと思う。よくは覚えてない。

 あまり直接関係しないもんだから、ちゃんと覚えようとしていないようだ。


「じゃあ、伊乃莉、例の班、何か手伝えるようなら言ってくれ。極力協力するよ。」

「うん、その時はよろしく。」


 そう言ってバスの前で別れる。


「何の話?」


 今度は智ちゃんが睨むようにして俺に聞いてきた。

 ちょっと揶揄える内容ではないと判断したようで、言葉は真剣だ。


「そうだな、智ちゃんにはいっといたほうがいいな。いや、F組に大江戸がいるだろう?」

「うん、それはクラスの張り出しの時、速攻でチェック入れた。」

「その大江戸と同じこの旅行の班に、伊乃莉の友達がいるんだけどな。」

「ああ、なんとなくわかった。その班の中で浮いてんだ。」


 なんかドヤ顔っぽい。

 でも微妙に違う。


「まあ、浮いてるくらいならいいんだが…。なにもしないらしいんだよ、あのバカ。」

「ああ。」


 すべて了解ってな感じで俺に頷く。


「あれだね。あいつのことだから、そんな子供っぽいことなんか付き合ってられるかって感じなんじゃない?」

「そう、もろそれ。で、班の人間が困ってる。この旅行の第一義は親睦なんだよ。要は仲よくしようってことだろう。それを拒否って感じらしいんだ。やりたくないならやらなきゃいいんだって吹っ切れればいいけど、担任や、さっきの学年主任からなんで彼を仲間にっ加えないんだって怒られる、かもしれないって危惧を抱いてる。それに、変に暴れられても困るしな。」

「相手にしないのが一番、ってわけにもいかない、か。」


 そんなやり取りの横であやねるも神妙に頷く。


 なんてことをバス近くでやってたら「早く乗れ!」と、岡崎先生に怒られた。


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