第220話 旅行の朝 Ⅲ
「静海さ、俺達快速で行くけどどうする?」
駅に行く途中、静海にそう聞いてみた。
いつもは途中で乗り換えがあるから各駅停車に乗っているんだが、今回の集合場所は快速停車駅でもある津田川駅だ。
わざわざ各停に乗る気がしなかった。
「えっ!」
「いや、津田川駅が集合場所の最寄りだからな。そんな驚くことでもないだろう?」
隣で智ちゃんが「うん、うん」と頷いていた。
「じゃあ、私だけで、各停に乗るの?」
「そうなるんじゃね。」
あっさりと言った俺の言葉に、小声で静海が何か言ってる。
「……いく。」
「えっ、なんだって?」
「私も快速で津田川まで行く!」
「いやあ、でも、津田川からじゃ乗り換えが…。」
「津田川からちょっと遠いけど、乗り換えできるもん。バスだってあるし。時間早いから、大丈夫だもん!」
確かに、津田川でも乗り換えは可能だ。そこそこ歩くけど。
さらにバスも出ている。
バスの中も混むし、道も渋滞しがちだけど…。
「わかったよ、じゃあ、一緒に行こう。」
「うん!」
元気よく答える静海。
やれやれ。
そう思って横の智ちゃんを見ると、なんか少し元気がない。
「…せっかく久しぶりに、二人っきりだと思ったのに…。」
うん、聞かなかったことにしよう。
駅に着くといきなり肩を叩かれた。
振り向くと、そこには生徒会庶務の岡林先輩がいた。
「おはよう、白石君、静海ちゃん。と、1年生?」
智ちゃんとは初めてだよな、たぶん。
「あ、はい、先輩。生徒会の方ですよね。私、1年G組の西村智子って言います。よろしくです。」
さすがに生徒会3年生は顔を覚えられているらしい。
「この西村さんは、俺のクラスメイトで、えっと、伊薙中で一緒なんです。」
「ただの幼馴染ですよ、先輩。」
静海が速攻で、ただの友人に過ぎないとアピールしてきた。
「じゃあ、二人は今日から親睦旅行か。きっと、彩音ちゃんから聞いてると思うけど、結構トラブルあるから気を付けてね。」
「トラブル?」
その単語で宍倉さんに対する山村咲良グループを思い出したのだろう。
しかめっ面を無意識でしている。
「あれ、なんかあった?顔が怖いけど…。」
俺は思わず智ちゃんの背中をつついた。
「ひゃっ。」
ちょっと変な声を出す。
そして、俺に振り返ってきた。
「変なとこつつかないでよ、コウくん。」
いや、お前が怖い顔するからだろう。
とは思ったが、静海がなんか冷たい視線を俺に向けるし、岡林先輩が変な想像をしてそうな顔をする。
「彩音ちゃん、泣かせちゃだめだよ、これ以上、白石君。」
「いや、いや、いや。今のはこいつが先輩に変な顔したからで…。」
「まあ、そう言うことにしときましょう。じゃあ、静海ちゃんはこっちでしょう。一緒に行こう。」
そう言うと、何か言おうとした静海の腕を掴んで、各駅停車のホームに有無を言わさず連れて行ってしまった。
うん、ちょっと安心した。
なんか膨れた顔で俺を見ている智ちゃん。
とりあえずスルーしてっと。
「ほら、行こう。早めには出てるけど、結構いい時間だぜ。」
俺の声に渋々ついて来て、ちょうど入ってきた快速電車に二人で乗り込んだ。
「でも、トラブルって…。」
電車の中で、智ちゃんが少し不安な顔をしている。
「何が起こるのか。何をしたいのか…。山村咲良グループの動向がわからないからな。でも、何かあったら、助けてくれ。」
「うん…、わかったよ、コウくん。」
ちょっと微妙な間があったが、俺の顔を見る智ちゃんの顔はしっかりしていた。
「なんか、これって、惚れた弱みってやつかな…。」
うん、聞こえない、聞こえない。




