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第212話 槍尾霧人 Ⅲ

「本当に、いい加減にしなさい!明日から旅行なんでしょう?いつもより早いんだから、さっさと寝なさい!」


 階下からいつものお袋の大声がヘッドホンをしているこの耳にも聞こえてきた。

 という事はチャット用のこのマイクも。音、拾ってんだろうな。


「ウミウシ君、お母様から怒られてんじゃん。やめた方がいいんじゃない?」


 最近、自分がうまくなってきたせいか、変に煽るようになってきたスコープウルフ。

 確かに技術も、索敵やタイミングもうまくなってきたんだが、それに伴って、変に人を見下す発言が多くなってきた。

 同世代かと思っていたが、もしかしたら年上だろうか。


 このゲームはチーム戦もあるが、ソロプレイや、野良同士で即席でチームを作ることもある。

 比較的ゲームをやり込んでいるという自負はあるものの、学校もあるし、親からの時間の制限設けている。

 そう言う制限のない人たち、それこそ大学生なんかは課金もして、やり込む時間もある。

 差がつけられるのも時間の問題だ。


「本当に、学校とかあるならより遅くまで付き合わなくても大丈夫だよ、ウミウシ君。俺も明日、会社でちょっと重要な会議あるから、抜けさせてもらうよ。」


 これはきっと俺を気遣ってくれたんだろう。

 ライオンヘッドさんはそう言ったところが気が利く。

 こんな大人になりたいな、と漠然とした思いがある。


「じゃあ、ウミウシ君も退場かな。おつかれ~。俺はちょっとソロやってきます。」


 勝手に俺を追い出すスコープウルフ。まあいいか。


「お疲れ様です。」


「おつかれ~。時間があえばまたやろうな。」


 ライオンヘッドさんがそう言って、退出。

 俺もそのまま退出して、PCをシャットダウン。


 もう11時だ。


 確かに早く寝といたほうがいい。

 べつにそれほど楽しみという訳でもないが、山村咲良の主導のもと、悪だくみに参加していることに、少し憂鬱になっている。

 なんか、微妙に歯車がズレてるって感じがある。


 そして、何故か塩入がその中に入ってきた。

 その時点で室伏と弓削さんは出てこなくなった。

 そして、何故か塩入と宍倉さんの話題になっている。

 そこから湯月玲子と山村咲良がかなりノリノリで話しながら、塩入を煽っていた。


 ちょっと、俺個人はげんなりしていた。


 山村咲良は美少女だ。

 それは間違いないんだが、言ってることがあまりいい気分のモノではない。

 最初はこんな綺麗な子と同じ班で喜びが大きかったんだけど、今はちょっと幻滅している。

 そこここに、自分はモテる、いい女だ、という自己顕示欲が強く、自己肯定感ってやつが肥大してるって感じがあった。


 とはいっても、有名人扱いの白石が気にくわないのも事実だ。


 なんか白石が綺麗な女子にモテまくって、ハーレムみたいに見えなくもない。


 実年齢が彼女いない歴の俺としては癪に障るんだよな。


 確かに明日は早い。

 寝た方がいいのは解ってるが、頭が眠気を拒否してる感じだ。


 仕方ない。

 ちょっと、冷蔵庫をあさるか。


 すでに両親は寝室に引っ込んだようだ。

 母親は文句を言うだけ言って、とっとと寝たらしい。

 きっと、明日の朝に俺を起こさなきゃならないと決め込んでるようだ。

 なんかむかついた。


 冷蔵庫を開け、グレープジュースを取り出し、キッチンに洗い終わったコップに入れた。


 その時、脱衣所のドアが開き、ブラパン姿の姉貴が顔を出した。


 思わず口に含んだジュースをこぼしそうになる。

 この前のタンクトップ姿と言い、この女は羞恥心ってやつを持つべきだ。


「何やってんだよ、姉貴!」


 口の中のジュースを飲み込んで、姉貴に文句を言う。


「風呂入ってただけでしょう?何、慌ててんの?」


 全く恥という感覚をどっかに捨ててきたような言葉を吐いた。


「それとも何?キリはこの姿に欲情しちゃった?思わず姉貴と知りながら、襲う気になっちゃた?」

「んなわけねえだろう!とは言っても、年頃の女性のそういう姿、弟だからって見せて言いもんじゃねえよ!」


 俺は思わず興奮しそうになってる自分自身を、その言葉で押さえつけた。

 この姉が、仮に山村咲良や宍倉彩音、柊夏帆ぐらいの美人なら下半身に異常が起こったかもしれない。


 が、この姉は普通の顔で、しかも今はすっぴんだった。


「とか言って、この体をおかずにすんでしょ?大丈夫、お姉ちゃんはそういう風に見られても、思春期の男子なんてそんなもんって、解ってるから。安心してね!」


 そう言うと、そのままの姿で、階段を上っていった。


 俺は大きくため息をついた。


 姉貴の顔は十人並みだが、スタイルはモデル体型と言っていいプロポーション。

 いい方変えればやせ過ぎだ。

 数年前の女子高生時代はぽっちゃりというのも憚れる体型だったが、受験時に食欲を激減させた。

 髪が抜ける程だった。

 それを心配した両親は心療内科に無理やり連れて行った。

 体形をクラスメイトの男子にいじられたというのと、受験のストレスからきてたらしい。


 無事目標校に受かったのちは適度の食事を心がけている。

 だから背中から見るとスッキリしている。

 だが腹部には肥満時の皮のたるみと皮膚割れがある。

 今はかなりまともになり、よく見ないとわからないが、あそこまでよくなったことにより、昔の様に明るくなって、弟である自分と下ネタまがいの冗談を言えるようにはなった。


 なんだかんだ言っても、俺はこの家族が好きなのだと、再認識した。

 と、同時に変に白石を妬んでいる自分が、途轍もなく卑小な存在に思えてきた。


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