第204話 はしゃぐ静海
夕食を済ませ、風呂に入り、俺はベッドに転がった。
明日はいつもより早く、荷物もある。
集合場所は学校より近いとはいえ、しっかり寝ないといけない。
そう思って早めにベッドに入った。
夕食時に静海はお袋に謝りながら、あやねると伊乃莉とでの服を見ていたことを楽しそうにしゃべっていた。
正直、俺はすぐにその3人から離れたので詳細は知らなかった。
だからどんな服を買ったかも知らなかった。
静海は、それはそれは、伊乃莉を絶賛していた。
静海の友達は伊乃莉の弟の悠馬君と、ダンス部の神代麗愛さんしか知らないが、静海が言うには友人達よりもおしゃれについて詳しい伊乃莉にかなり心酔しているようだ。
そう、かなりはしゃいでいた。
そして、お袋は最初、小言を言っていたのだが、その静海のはしゃぎぶりに笑顔になった。
その眼に少し光るものも見えた。
親父と一緒で、やっぱり親父を亡くしたショックを心配していたようだった。
静海のはしゃぎっぷりは夕食時のみにとどまらず、風呂上がりに今日買ってもらったという水色のブラとお揃いのショーツで俺たちの前に出てきたのだ。
さすがにお袋もその行動には絶句して、怒っていた。
それにもめげず、同じデザインのピンクもあるという余計な情報も口走っていた。
おい、伊乃莉!一体どこまで面倒見てんだよ!
明日以降に伊乃莉には感謝の気持ちを伝えようと思ったが、苦情を言う事に変更した。
そんなことで疲れたこともあったが、よく考えたら、今日もまた、親父に聞かなければならないことを思い出した。
(なあ、親父さんよお。ちょっと今日の午前中の話を整理したいんだが、いいか?)
(……)
(もう一度言うけど、午前中に来た人たちの情報を知りたいんだが、いいか?)
(………)
(寝たふりすんなよ、親父)
(…………)
(そういう態度取るなら、直接山上さんに連絡取って、片見さんが栄科製薬の人間じゃないって言うよ?)
(ちょっと待て!光人、お前何考えてんだ?)
(親父がもっとちゃんと俺に説明して欲しいってこと)
(ちゃんとも何もなあ)
(片見さんが厚労省の役人なのに、結構親父のことを知っているような口ぶりだったじゃないか?なんで、厚労省の役人とそんな仲なんだよ!)
(ああ、その件な。うちの会社、栄科製薬と中央理化学研究所、それと厚労省で合同のプロジェクトをしていたんだ。私も山上君もそのメンバーだったんだよ。その時の厚労省の出向組に、その片見君がいた。まあ日本トップクラスの大学で博士号持ちだからな、私なんかよりもよっぽど優秀なんだがね)
(親父、そんなことしてたのか…)
(どうだ、誇りの親父だろう?とはいえ、かなり忙しくてな、舞子さんが泣きながら辞めてくれって言われたよ)
(それで転職?)
(まあ、それも転職の一つの理由だ。それだけじゃなかったが…。まあ、そこらへんはいいだろう?片見君とはそういう人物さ。ただ、わざわざこんなことに出てくる人間じゃないはずだが)
(なんかあるのか?親父の死について。なんか、あの片見さんの目、凄く疑わし気に俺を見てたんだよな)
(それは悪いと思ってる。私がお前の身体を使っていろいろ動いたことを、どうも調べてるような雰囲気だったからな、あれ)
俺はベッドの中でため息をついた。
まあ、あまり関わりがある人間ではないとは思うけど…。
とりあえず、半年後くらいの検査かな、会うのは。
(今の所、このことでどうこうあるわけではないと思うから、光人は明日からの旅行に備えろ。かなり頭の痛いことが多いんじゃないか?彩ちゃん絡みで、塩入君と山村咲空さんだっけ?あとは大江戸君な。何かあれば岡崎先生が対応してくれそうだが)
(本当に頭痛いよな。純粋に旅を楽しんで、本当に親睦を深めたいんだけど)
(そこらへんは出来るんじゃないか?確かに気を付けないといけない人物はいるが、逆にいい奴も多いじゃないか。青春、エンジョイしろよ!)
(傍観者は気楽でいいね、親父)
(私で出来ることはサポートしてるつもりなんだけどな)
(わかってる。何かの時はよろしく頼むよ)
(まっかせなさい!)
頭の中に親父の声がこだまするほど、張り切っていやがる。
俺は色々大変になるなあ、と思いながら眠りについた。




