第203話 妹との仲
俺のスマホで伊乃莉に連絡を取り、お袋が変わって礼を言った。
その時に立て替えてもらった金額の確認をして、俺のバイトの件と合わせて、もう一度礼を言っていた。
お袋に頭をワシャワシャにされながら、「いい子に育ったね」と褒め言葉を頂き、そのままお袋は夕食の準備に入ったので、俺は2階の自室に一回引っ込む。
今日買ってきた小物を明日持って行くバッグに入れた。
ノックの音がした。
扉がゆっくり開き、静海が顔を出す。
「いろいろ下から聞こえたんだけど…、お兄ちゃん、ありがとうね。お母さんへの言い訳。」
「いい訳ってわけじゃないさ。事実を言っただけだ。でも、あとでしっかりお袋には自分からも言えよ。」
「うん。ちょっとこの荷物でお母さんに責められると、言い返す自信なくて…。でも、こんなに服買って貰ったことには、嬉しさしかなくて…。」
それは充分わかってたけどな。
「お袋はとりあえず伊乃莉に礼、言ってた。お前からも今日のこと、LIGNEで構わないからお礼言っとけよ。まあ、それと一応立て替えてもらってるという態にしてあるけど、本当にバイト料を受け取るかどうか、わからん。だから返しに行くときは思えも付き合え。」
「うん、わかってる。」
もともといい子なんだからそう言う礼儀みたいなものは果たしてくれるだろう。
静海と二人で払いに行けば、伊乃莉も断りづらいだろうし…。
「で、買って貰った服、チェックしてたんだろう?いい感じか?」
「そりゃあね。伊乃莉さん、センス高いっていうか、私の好みに合うもの、しっかり選んでくれたもん。試着もしたし。お兄ちゃん、見たい?」
「興味がないと言えば嘘になるけど、どんなもんかは知っておきたいな。そう言う服の相場も知っておきたいし…。まあ、はいブランドの服着られたら、逆に失礼なこと、言いそうではあるけど。」
「なに、それ。一体誰の事思って言ってんだか。」
「もうすぐ夕食だから、そのベッドに置いてある服たち、ちゃんとしまっておけよ。」
「そりゃあ、当然ね。来週末くらいにならなきゃ着ないと思うし…。下手すればGWになっちゃうかも。」
そうか、旅行終わったらすぐGWだな。
早めに伊乃莉にバイトの件、お願いしとかんといかんな。
須藤も誘ってみよう。
さすがに旅行中にそういう話が出来るとも思えんけど。
「お兄ちゃん、もしかして忘れてるかもしれないけど、ダンス部の舞台がGW中にあるからね。一緒に行ってもらうよ。」
「ええ、なんで?俺、そんな約束した覚えないんだけど。」
「麗愛が踊るんだからさ、見てやってよ。なんか気に入ってるみたいよ、お兄ちゃんのこと。」
「こんな非モテ陰キャ童貞野郎が行く必要ないだろう?」
俺の言葉に一瞬、静海が渋い顔をする。
「それは悪かったって謝ったよね。いい加減、そう言うこと言うのはやめて。童貞は事実としても、白石ハーレムを作るくらいに、モテモテなんでしょう?」
「俺はそんなもん、作った覚えはないし、そんなに女子にモテているという実感はない!」
「はあ~、聞こえてくる噂と本人の意識のギャップが凄すぎるわあ。最低でも宍倉さんから好かれてるという実感くらいあるでしょう?」
「あ、うん、まあ…。」
「もう、変に自虐的にはならない方がいいよ。お兄ちゃんはこの美少女である静海の兄でもあるんだから。」
全くよくそんなことが言えたもんだ。半年くらい前の静海に聞かせたい。
「あっ、今、変な事考えたでしょう?過去なんか振り返ってる暇はないよ、お兄ちゃん。」
何故だか、最近自分の思考を他人に読まれてる気がする。
「そりゃあ、それだけ顔に出れば、誰だってわかるって。」
「そんなに解りやすいのか、俺の表情。」
「うん、昔に比べると、すんごく。」
ああ、ちょっと引き絞めんと。
「で、そういう事だから、ダンス部の公演の日、あとで教えるから、開けといてね。」
「空いてたらな。」
何と言ってもバイトを入れる予定なのでね、静海のせいで。
とはさすがに言えない。
「二人とも、夕食の準備できたよ!」
階下からお袋の声が聞こえた。




