第201話 お袋への言い訳 Ⅰ
家に着くと「ただいま」と言って、そのまま静海は大荷物を持って自室に行ってしまった。
「あら、お帰り。必要なものは買えた?」
お袋には明日からの親睦旅行の買い物にあやねるたちと行くことは告げてあった。
それを聞いたときのお袋のいやらしい笑顔が思い出された。
「夕飯はまだなんでしょう?」
「ああ、お願いしてもいい?」
「当然よ。それより、静海がかなり多めの荷物持っていたみたいだけど、どうしたの?」
ああ、やっぱりそこ、聞いてくるよね。
まあ、隠せるもんじゃないもんな。
「どう説明したらいいかな…。今日、宍倉さんに呼ばれて西舟野に買い物のお供をしたんだけどさ。」
「それは聞いてるけど。で。静海が我儘言って光人についていったんでしょう?」
「そうなんだけど。で、結局宍倉さんの友達の鈴木さんっていう女子もいて4人で買い出しにはいったんだ。」
「それは分かったけど、それと静海のあの荷物。静海にしても光人にしてもあんなに物を買うお金って、持ってないわよね?」
ここからの内容は出来れば言いたくないんですけど。
(光人が静海に甘い顔をするのがよくない)
(ちょっと待った!親父が一番静海に甘いんだろう!俺は伊乃莉に断ろうとしたんだぞ!)
(私には君が何を言ってるのかわからないんですけど)
とぼけやがった、このくそ親父!
「とりあえず4人でお昼食べた後、旅行に必要なものかって…。」
「そうね、それが目的だったわけよね。でも、静海はその件、全く関係ないでしょ?」
なんで俺が説明しなきゃいけないんだろう?
これって当事者である静海が説明すべきことなんじゃないだろうか?
お袋の圧が強くなってきてるんですけど…。
「俺たちの買い物自体はすぐ終わった。本当に小物買うぐらいだったし…。正直言えば、わざわざ西舟野ですべきことでもない。」
「それはお互い様でしょう。その状況聞くだけで何が目的か、普通は解るよね、光人?」
「おそらくだけど、想像はついてる。自分で言うのもなんだけど。」
「お母さん、そこまで無粋ではないわよ、その理由については。それよりも、静海のあの荷物と、それを買うためのお金の話!あの紙袋のロゴ、有名よね?この界隈だとあまり出店してないけど。」
ごまかしがきかないことは解ってる。
わかってるんだけど…。
「宍倉さんもそうだけど、鈴木さん、ちょっと下品な言い方だけど、お金持ちよね?二人とも。」
「はい、おっしゃる通りです。」
「あなたたちが他人様のものを盗むような子ではないことは信用してます。とすれば…。」
「お袋の想像通りだよ。買い物自体はすぐ終わったから時間が出来て……、静海が含みたいって言って…。」
「静海も女の子だからね、ウインドショッピングなら別に不思議はないわよ。問題はその後。」
「伊乃莉…、鈴木さんはファッション関係が好きで、静海が凄く可愛くて…。」
「そう言う事ね。静海に似合う服をコーディネートしてもらった。」
「うん、たぶんお袋の考えている通りのことが起こった。伊乃莉はファストファッションだし、これくらいはいいと思ったんだろうけど…。」
気付いたら、もう直す気力もなくなって、お袋の前でも「伊乃莉」呼びになってた。
「その服を静海が凄く気にいって、鈴木伊乃莉さんが勝ってくれたってことね…。まあ、静海がいろいろ我慢してるとは思ってたけど…。あの学校は裕福なおうちが多いからね。」
お袋は大きくため息をついた。
俺もそうだったから、その気持ちは十分すぎるほどわかった。
お袋も俺のそんな気持ちを理解したのだろう。
「光人もお父さんに似て静海には甘いよね。あんなに酷い感じで扱われてたのに…。」
「まあ、それは、ね。」
この数か月前までの静海の態度をお袋も知っている。
だからこういう感想が出るのだろう。
「だからと言って、あれだけの量、決してただでもらっていいものではないわ。それは光人も分かってるでしょう?」
「わかってる。」
「だったら、やることは一つね。鈴木さんの連絡先、教えて。」
ああ、やっぱりそうなるか。
でもここで親が出ると、ちょっとややこしくなるよな。
でも親としてお袋の行動を止めることはできないし…。
「お袋の言いたいことは解ってる。俺だって、この件は伊乃莉に抗議はしたんだ。それでも、俺のいじめや受験で静海が辛くて、わがままも言えない状態だった。やっと俺の問題もあらかた解決したと思ったら、親父が死んじゃって…。」
俺の言葉にさすがにお袋も言葉が出なかった。




