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第2話 宍倉彩音 ⅩⅤ

「お願い!宍倉さん!何とか私と佐藤君が二人っきりになれる時間を作って欲しいの。」


 瞳がそんなことを私に言ってきた。


 学力テストが終わり、微妙な手ごたえだった私は、光人君とお昼を一緒に食べたいなあ、なんて思ってるところに急に今野瞳さんに腕を捕まれ、この4階の渡り廊下まで連れだされた。


 光人君はそんな私たちを優しげに手を振って、見送ってきた。

 ちょっとショック。


 常日頃、光人君の私への態度と私の光人君への温度差を感じているけど、にこやかに見送るって酷くないかな。


 私は、あの日曜日に私に内緒でいのすけに会っていたこと、まだ根に持っています。


 そこにどのような理由があるのか、ただの偶然なのかはいまだ不明。

 でもその後の西村さんと一緒に光人君の家に上がって、光人君のお母さんに会っている。

 さらにいじめの話の具体的な状況まで知っている。


 なんでいのすけがそんなの光人君のことを知っているの?


 さらに、家まで送ってもらってる。

 それを私は目撃した。


 声を掛けようとした。

 そう、私は光人君に会いたいな、と思って駅の近くをちょっと散歩していた。

 そうしたら、駅から出てくるいのすけと一緒に手を引っ張られるようにして現れた光人君。


 って、なんで、手、繋いでんの!


 とてもではないが、声を掛けられず、その後をつけてしまった。

 そして二人は異常に接近した時、写真を撮ってしまった。

 まるでキスしてるみたいだった。


 でも、その後の光人君の様子と、いのすけの怒っている雰囲気で、そういう仲になったとは思えなくて、少し安心したんだけど…。


 あの二人に何があったのか、ちょっと不安。いのすけは私の大事な友達。

 ううん、親友だ。

 ほとんど引きこもりそうなほど中学で私は一人ぼっちだった。

 というより周りの日が全て信じられなかった。

 なんでそうなってしまったのか、自分で思い出すとしても霞がかかった感じで、それ以上思い出そうとすると、頭が痛みを訴え出してくる。


 そんな状態の私を中2で同じクラスになっただけなのに、何故か執拗に声を掛けてきた。

 最初は困惑しかなかった。

 長い髪もボサボサで、ニキビが浮かんで色白というよりも青白い不健康そうな女だった私である。

 だからこそ1年ではほとんど声を掛けられることはなかった。


 露骨ないじめはなかったものの、ずっとぼそぼそした話し方というのも加味されて、遠巻きにされていた感じ。

 でも、それで私はよかった。

 これなら、誰からも心が壊れそうになる裏切りは起こらない。

 もうあんな思いは嫌だ…。

 えっ、あんな思いって何?


 自分で何のことかわからなくなってくる。


 でもいのすけは、無関心を装う私にしつこいくらい声を掛けてきた。


 鈴木伊乃莉。

 学校では知らない人がいないほどの有名人。

 スーパー大安の令嬢で、でも気さくな人柄、スタイルのいい美少女。

 男子からも女子からも好かれる人気者。

 まさしく私からは違う世界の人だった。


 ある日、私が好きなラノベをカバーで表紙を隠して読んでいたら、懲りもせずいのすけがきた。


「何読んでんの、あやね?」


 そう言ってのぞき込んでくる。

 運の悪いことにちょうど挿絵があるページだった。

 可愛い女の子が少し照れたようなイラスト。

 別にみられて恥ずかしい絵ではなかったが、見る人が見ればラノベ…そうヲタク趣味がばれてしまう。


「彩音もそのシリーズ読んでんだ!私、そのアニメ好き!」


 その時の感情をどう表現すればいいのだろう。

 両親は既に諦めていた。

 好きなものがあるのならそれを良しとしていた。

 だが中1のクラスでこの趣味がばれた時の、まるで汚物を見るような眼は忘れられない。

 おそらくだけど、アニメでもラノベでも好きな同級生はいたと思うが、運動部を中心にした陽キャと呼ばれる人たちは、その存在を好むクラスメートにヲタクのレッテルを張り、いじりという言葉の暴力をふるってくる。

 女子に至ってはもっと陰険に、その趣味の人たちを貶め、自分たちの優位の確立に余念がないのだ。


 そんな状態で、運動系ではないものの、容姿端麗で、自分を可愛くすることが好きな陽キャの代表ともいえる鈴木伊乃莉が私の趣味を認めてくれたことに、言いようのない感情が込み上げてきた。


「す、鈴木さんも、この、アニメ、見たの?」


「見たなんてもんじゃないよ!19話なんてすんごいじゃない。神回っていうの。涙が止まらなかったんだから!ホント、何年ぶりだろう、アニメ見て泣いたのなんて!」


 その言葉に嘘は見られなかった。


 いのすけはアニメしか見ていないようだが、ついヲタ特有の熱のこもった早口でラノベを貸す約束までしてしまった。


「鈴木さんでなく、いのちゃんって呼んでよ、あやね!昔のように?」


「昔って?鈴木さん、誰かと間違えていませんか?」


 そう、きっと私に似ていた友達がきっといたのだろう。

 間違えちゃうくらいの。


 でも、私がそう言ったときのいのすけの顔は微妙に落ち込んでいた気がする。

 どうしてなんだろう?


「じゃあ、さ。今日、彩音の家に行っていい?その本借りに。」


 急に明るい声で言ってきたときには、少し笑った。

 急すぎないかい。


 その日のうちに家に招待して8階建てのビルに招いた時も、変な事を言っていた。


「そうかここが彩音の新しい家なんだ。」


 その日から私は同級生の鈴木伊乃莉のことを伊乃莉と呼ぶようになった。


 いのすけは私にとって大事な友人。

 でも光人君は特別な人。

 父や先生を除いて、こんなにも自然に話ができる男性は他にはいない。

 というより、光人君と話すようになって、一応はクラスの男子とも普通に話せるようになった気がする。


 だからこそ、二人の仲が気になる。

 いのすけの胸はつつましいから大丈夫と思いたいが、それでなくてもスタイルのいい美少女のくせに、気合の入ったメイクをされると道行く男性はもちろん、女性すら振り返るほどの美女になっちゃうんだから。


「宍倉さんは白石君とすんごく仲良しだよね!で、白石君ってなぜか佐藤君と友達になってる。うまくすれば私と佐藤君を二人きりにできると思うんだ、ね、お願い!」


 うーん、確かにできなくもないかもしれない。

 それに、これは私と光人君が二人きりになることでもあるんだよね。


「わかったよ、瞳。できるかどうかの約束は出ないけど、協力はする。」


「ありがとう宍倉さん!」


 今野瞳がえらくはしゃいでいた。


 まあ、自分のためでもあるし、頑張ってみるか。


 光人君を他の女子にとられることは避けたいしね。

 それが親友のいのすけであっても…。


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