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第197話 中学時代のあやねる

 俺にしても、静海にしても、そんなに手持ちがあるわけではない。

 静海は「洋服を見たい」のであって、買う気はなかったらしい。


 それでも、おしゃれ大好きな伊乃莉が嬉々として静海を連れまわしていた。


「あっ、なんか中学を思い出すわあ。」


 そんな二人を見ながらあやねるがそんな事を呟いた。





 あやねると伊乃莉は静海を引き連れ有名なファストファッションの店に連れて行った。


 あやねるが160㎝前後、伊乃莉はそのあやねるよりは背があるが、静海ほどではない。

 にも拘らず、明らかに静海が二人に比べて小さく見えた。


「静海ちゃんはタッパあるから、映えるよね。」

「ホント、羨ましいよ。私なんかそんなに大きくないから、こういう丈のある奴は似合わないんだよね。」


 伊乃莉とあやねるが自分の気に入った服やパンツを持ってきて静海に当てては、そんな褒め言葉を並べていく。


 俺はなんだかよくわからないその光景に、ちょっと店舗から離れたベンチに腰を下ろした。

 周りを見るとそこそこ歳を重ねた男性たちが俺と同じように疲れた顔で店舗を見ているのに、ショックを受けた。

 あれ、俺高校生、だよな。


 その店や、他の店をよく見ると、自分くらいの男子はその連れの女性と何か楽しそうに服を選んでるのが見えた。

 ん?あれ、知らないうちに俺は親父と入れ替わってしまったんだろうか?


(現実逃避はやめろよ、光人。入れ替わってなぞいない。お前は女子のパワーに当てられて、疲れ切ってるんだよ)

(あの女子と一緒に楽しく服選びしてる男子。とても同じ人間には思えん)

(付き合い始めだったりすれば、ああいうのも楽しいもんだ。じきに疲れあでてくる。本当に女性の買い物は男にとっては疲れるもんだからな)


 すでにその想いはよくわかった。

 今回は静海の服選びを女子二人がやってくれてるから、俺はこうして休んでいられるのだが。


 そう思っていたら、あやねるが俺の横に座った。


「ああやってるいのすけを見ると、中学を思い出すんだよね。」


 で、冒頭のセリフになるわけだ。


 二人で静海の服を見ていて、伊乃莉の目に適うものがあったらしい。

 それであやねるは一旦その場を離れ、自分たちから離れたところで見ていた俺に気付いたらしい。


「私も、いのすけに知り合ってから、美容院で髪を整えたの。それまではあんまり自分の見た目を気にしなかった、というより、極力男性の目から触れないようにしてた。そこを強引にいのすけが変えてくれたの。」


 少し遠い目でそう言うあやねる、宍倉彩音は何故私にそんなに関わって来るのか、わかんない、とも言っていた。


 俺は顔には出さないようにしたが、その心の中は伊乃莉に対する同情のようなものが沸き起こってきていた。

 そう、小学校の時に会っていた記憶があやねるにはいまだ戻ってきていない。


「私が今みたいな髪型にしたら、なんだかわからないけど、いのすけがすごくよろこんでね。憧れの声優さんによく似てるって。で、いのすけの友達と一緒に、やっぱりこの系列のお店に連れて行かれて、コーディネートを考えてくれたの。その時の候、華やかな気持ち、こんな風に自分でもなれる、綺麗になれるって。いのすけが言ってくれたの。それからかな、ほとんど引きこもりみたいになっていた自分が変わり始めたの。」


 自分がなぜいのすけにそこまでしてもらえるかわからない、とは言うものの、その変化は自分の中で何かを変えたのだろうと、くすくす笑いながら俺に話してくれた。

 今の静海を引っ張っていく姿がその当時の自分に重なってるのだろう。


 静海は決してその時の宍倉彩音という少女とは違う。

 それは充分わかりながらも、それでも年齢的に似た静海に、共感をしているようだった。

 そのあやねるの優しい笑顔を曇らせてはいけない。


 俺は一人そう思った。


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