第194話 静海の心配
「私たちの頭ん中って、変なのかな?」
西舟野駅に向かう電車の中で静海がそんなことを言ってきた。
半年後に栄科製薬持ちの人間ドックについて、少し不安が出たのだろう。
おそらくお袋と静海に関しては問題がないはずだ。
問題がある可能性は俺の方だ。
多少の異常性が見つかったとしても、まさか俺の脳内に親父の人格が出現したなどは思わないとは思うのだが。
「別に気にすることないだろう?何か気になることでもあるか?頭痛がするとか、記憶が曖昧なことがあるとか?」
「そういうのはないんだけどお……。」
「けど?」
「なんか、お兄ちゃんが心配。この2か月くらい、それこそ頭から煙を出すくらい、私やお母さんのために動いてくれたんでしょう?」
そう言って、俺の方を、というより俺の後ろに視線を投げてきた。
「まあ、そうだけどさ・・・。それで頭がおかしくなるという事も…」
「でも、でもでも!そんなに酷使したら、身体の方もおかしくなるでしょう?実際に入学式で、過労が原因で倒れてるし。」
う~ん、心配してくれるのは有り難いんだけどさ、ここ電車の中だから。
そんなに人が乗ってないからいいけど、どうも、周りの視線がチクチクしてる気がする。
(そうだな、光人。どこのカップルが痴話げんかしてんだ、って目で見られてるよな、これ)
(親父、うるさい。肝心な時には何も答えないくせにさ。お袋や静海がビビってるのわかるだろう。急に頭の検査するとか言われたらさ)
(それはそうだけどな。まさか、あのサプリごときでこんな検査をやるとは思わなかったんだよ)
(それは俺も思った。どのくらいそのサプリのモニターがいるか知らないけど…。たかがサプリメントでさあ)
(そう、何だよ)
(というより、親父が何かを隠してるってことは解ってるからな。その剣さの後くらいにはその理由を話してもらいたいよ。もし、本当に俺の頭がおかしくなってるとするなら、それは親父の責任だろう?)
(そんな疑うなよ。まあ、このサプリの効能についてなんか、言った通りだし…。もし状況が許せば、今度山上に会うときに、少し入れ代わって話を聞こうとも考えたけど。変に疑われるのもなあ)
(ああ、わかったよ。まだこれから事故絡みのことも控えてるし。裁判の件もあるんだろう?こっちも今度の旅行はちょっと心配事が多々あるからな)
(光人の役に立てることには協力するからさ。とりあえず、山上たちの言ったことは気にすんな。向こうも処理することがあるんだろうから)
(そこのとこなんだよな。なんで厚労省の役人が来てんだか。親父が栄科製薬でやってたって言うこと、ちゃんと話してくれよ)
(ちょっと込み入ったことしててな。その忙しさに舞子さんに心配かけたってのもあってな。栄科製薬を辞めた理由も絡んできてんだが…。光人がそこら辺の事情が理解できるようになったら話すよ)
(それっていつ頃になるんだ)
(最低、就職活動になる頃だろうと思う。会社や経済といったことが朧気ながらわかるようになってからだ)
(わかったよ。あてにせずに待ってる)
脳内でそんなことを話していたら、静海が俺をじーっと見ていた。その視線に圧を感じる。
「ど、どうした、静海。」
俺に一睨みして、少し怒ったように口を開いた。
「たまにあるよね、お兄ちゃん。そうやって無言なんだけど、どこも見てなくて、変に考え込んでること。」
「えっ、そうか?ちょっとぼーっとしてただけだろう?」
「とてもそうは見えない。何か考えてるというか…、誰かと内緒の話をしてるって感じ?」
えっ、そんなのわかるんですか?
「そ、そんなことないよ。まあ、確かに山上さんたちのことを考えていたのは事実だけど。」
「う~ん、なんかなあ。お兄ちゃん、日常的に変な事があるんだよね。部屋でも誰もいないはずなのに、誰かと話している雰囲気あるしさ。」
ああ、やっぱり、俺の部屋の外から俺の動向を探ってるのか。
家だとちょっと緩むからな。
(本当に気をつけろよ、光人。下手すると心療内科とか精神科に連れて行かれかねないからな)
(誰のせいだよ!)
静海の視線に耐えながら俺は親父に文句を言った。
実際、俺が頭の中で親父と会話してる時の自分の表情は解らない。
少し気を付けないといけない。
そして、静海の態度。
明らかに何かを探っているようにも取れる。
家でも気を付けないといけないな、と心に刻んだ。




