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第193話 お買い物の誘い

 そのまま、新幹線の時間があるという事で、岡崎親子と山上さんは家を後にした。


「プロポーズをしたってことだな、岡崎先生。明日が楽しみだ」


 そうほくそ笑んでいると、すでに目元の濡れをふき取って、いつもに戻ったお袋が俺のそばに来た。


「先生をあんまり揶揄わない方がいいよ、光人。それより、明日からの旅行の準備ってできてるの?」

「まあ、あらかたは。基本、着替えがあればどうにかなるし。」

「それならいいけど…。ちょっと私もバタバタして、あんまり協力できないから、十分気を付けてね。」

「はあ~い。」


 そうは言ったものの、さすがにちょっと不安になった。

 俺はとりあえず自室に戻る。


(で、あの人たちって、ここに何しに来たの?どうもただのアンケートって感じじゃないけど)

(俺に線香あげに来ただけだろう。それとちょっとした個人のエピソード)

(わざと人を間違えて言ってるのは解ってる。まあ、そっちの話をしたいなら、それはそれで聞きたいことも盛りだく)

(わかったよ、光人。私が悪かった。山上達がアンケートを目的に来たことは本当だ。ただそれだけではないってこと)

(だから、それだよ、その「それだけ」でないっていう内容)

(単純に言えば、光人や舞子さん、静海、そして私が飲んでいたあのサンプル、サプリメントの身体への影響だ)

(そんな感じなのは雰囲気でわかってた。で、だ。その影響が、この変な状態ってことでいいのか?親父さんよ)

(さすがにそれは解らない。まさかこんなことが起きてるなんて、彼らが想像してると思うか?)

(それは…、うん、そうだね、思わないね。ここで親父が俺の身体を乗っとって話してたらどうかわかんないけど)

(あいつらが体の測定をしたいのも、脳に対する安全性を考えてってことだ。考えてもみろ。頭が良くなるサプリって売り出すなら、当然脳に対する影響があって当然だろう?)

(うん、そういえば…ん?)

「おい、それって、完全に人体実験じゃねえか!」

(おい、光人!)


 急に外に足音が響いた。


 ノックもなしに俺の部屋のドアが開けられた。


「お兄ちゃん!」


 静海が飛び込んできた。

 その後ろにお袋の顔。


「な、何だよ、二人して…。急に部屋のドア、開けんなよ!」

「だって、なんか、お兄ちゃんの変な、…絶望的な声、したんだよ?自分で分かってないの?」


 二人の顔が真剣だ。


「あ、いや、俺、なんか言ってた?」


 つい、そんな言葉が口から洩れた。 

 もう、しらを切り通すしかない、よな。


「あんな大声で…、覚えてないの?」

「なんか、人と会って、疲れたのかな…。うつらうつら、してたみたい。変な夢、見てた気はするけど…。」


 うん、無理はない話、だよな。

 俺はお袋の問いかけに、そんな嘘を行いた。


 脳の住居人は何も言わない。


「ゆ・め…、なのね?でも、人体実験がどうとか…?」

「人体実験…。ああ、たぶん、さっきの山上さん達のことが絡んでるんじゃないかな。サプリのアンケート。考えてみたらあれって、人体実験だよなって。」

「言われてみれば、そうね、確かに。もう、びっくりさせないでよね。」

「すんません。自分でも夢の内容は覚えてなくて…。」


 安心するお袋に対して、なんか疑りの眼差しを向けてくる静海。

 何を疑ってるのかがわからない。


 その時に俺のスマホにLIGNEの着信音が響いた。

 あやねるからだ。


 明日の旅行のための買い出しのお誘いだった。


「ん、どうしたの、光人。お友達?」

「うん。宍倉さんが明日の旅行の買い物に付き合ってほしいって。どうやら西舟野に出てきてるみたい。」

「あらあら。」


 急にお袋の顔がいやらしくニタニタした顔になった。

 思春期の息子にしていい顔ではない。


 だが、反対に静海の顔が険しくなった。


「これからお昼にしようかと思ったんだけど…。どうする、光人?」

「ああっと、俺はいいや。ちょっと出てくる。」

「うふ、行ってらっしゃい。宍倉さんによろしくね。」

「ああ、言っとく。」


 ニタニタ顔のままお袋は俺の部屋を出て1階のリビングに戻っていった。


 大きくため息をついた。

 と、俺のシャツの裾を引っ張られた。


「これからデート?」


 静海が険しい顔のまま、俺を睨んでいた。


「い、いや、デートではない。伊乃莉もいるし。」


 あやねるが西舟野にいるという事は、当たり前のように伊乃莉もついて来てる。


「伊乃莉さんがいるなら、お兄ちゃんが行く必要はないんじゃない?」


 それはそうだけど…。

 あやねるに誘われて断るという選択肢はない。

 ちなみに、伊乃莉から普通に誘われた場合は、その時の自分の環境により、断ることはある。

 強く言われた場合は断れないが。


「折角美少女に誘われて、断る高校男子はいない。」


 俺は胸を張っていった。


「じゃあさ、私とおうちで遊ぼ。」


 なぜか静海がそんなことを言ってきた。


「えっ、何言ってんの。いま、あやねるたちのとこに行くって俺言ったよな。」

「美少女の誘いは断らないんでしょう?」

「ああ、そうだけど。」

「美少女。」


 そう言って静海は自分を指さした。


「はあ?」


 俺は思わずそう言ってしまった。


「美少女!私も美少女だよ!それともお兄ちゃんは私が可愛くないとでも言うの?」


 う~ん、君は数か月前まで俺に対して示していた態度を思い出したことありますか?

「そりゃあ静海は可愛いけど、妹だから。守るべき対象ではあるけど、今回はあやねるたちと買い物に行く。お前だった友達がいるだろう?遊びに行きゃあいいじゃん。」

「麗愛は部活。鳴海はデートだもん。」


 そう言われてもなあ。


「じゃあ、私もお兄ちゃんと一緒に行く!」

「えっ!」

「私もお兄ちゃんやあやねるさん、伊乃莉さんとお買い物に行く!」


 今にも泣きそうな静海に、俺は負けた。


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