第19話 日向雅 Ⅱ
やっと形になった。
本当はもっと、細かく角度を変えたり、他の構図も書いて検討したいとこだけど…。
頼まれてる方も、もう少し手を入れたいとこだし、作者にこんな感じってことを伝えるには、まずはこんなとこかな。
まだ配色は決まり切らないけど…。
プロとしてはこういう中途半端はよくないかなとも思うけど、今は学生ということで、これくらいにしといたほうがいいのかも…。
いつかはばれそうだけど。
特に有坂!
あいつには注意しないと…。
日曜の夜。
既に高1の勉強は一通りやってあるから、仕事の時間を優先して取れるようにはしてある。
できれば美大に進みたいとは思っているけど、そうなると仕事に回せる時間、少なくなるよなあ~。
学力テストとやらは、今回はそれほど気にしなくてもよさそうだけど、この日照大の技術学部は少しレベル低いし…。
この1年間で進路についてはしっかり考えないと…。
お風呂は既に入ったけど、やっぱり髪が短いと手入れが楽でいいな。
前の高校では長めにして、女子として懸命にやってたけど、気疲れが酷かった。
学年は違うけど、有坂がいてくれるのも心強い。
あっちはあっちで、変にギャルっぽくなってたけど…。
その辺については深く聞いてない。
微妙にアンバランスで面白いし…。
さて、本業の方のラフ画を少し書いておくか。
何個かやりたいラノベもあったし。
そんなことを考えて、PCの画面のものを印刷し始めた。
あまりいい顔をしない父親を母が説得して買ってくれたA全まで印刷可能な高性能プリンター。
まあ、半端ない金額だったけど…。
さすがに最大で印刷する気はなかったので、A3で出力した。
インクもいいやつ過ぎてあまり頻繁には印刷できないが、インク代は担当さんが経費で落としてくれるので助かる。
まあ、いい感じで印刷されている。
さて、これをいつ見せるか?
明日も午前で授業というか、学校は終わる。
見せるタイミング、あるかな?
あんまり他の人には見せたくないし…。
そう思っていると、スマホがLIGNEの着信を知らせてきた。
有坂裕美だった。
今、電話してもいいかという打診。
私はすぐに有坂に電話をかける。
『あっ、早い。』
「どうした?電話とは、最近珍しいな。」
『LIGNEでもいいんだけど、ちょっと長くなるかも?って考えたら、電話の方がいいかな、って。』
「今、大丈夫だ。ながくなるか~、うーん。」
『いや、極力短くする。約束する、よ』
「長くなってもいいんだけど、な。有坂が長くなると前置きするってことは…。」
『な、何だよ。』
「恋愛がらみかな、と。」
『いやいやいや、何故そう決めつける!他の悩みかもしれないだろう?』
「やっぱり、お悩み相談か。はあ~。」
『や、やっぱりって…。カマかけたのか、雅!』
「で、その悩みは恋についてだろう?カマをかけたわけじゃない。事実を言ってる。」
『しかも、言い当てといて、ため息つくって何なんだよ!』
「めんどくさい悩みに決まってるからだよ。それくらいは自覚しろ。私が、あの学校でうまくいかないときにも、なんだか同じような悩みを聞かされて、辟易してたんだぞ。」
私がそう言うと、急に有坂は黙ってしまった。
痛いとこをつかれたという感じだろう。
といってもすぐに立ち直る、強心臓の持ち主でもある。
彼女の、問題を単純化して解決する手法は、見ていて気持ちがいい。
そして、それは私をあの牢獄のようにがんじがらめだった状態を、鮮やかに解き放ってくれた存在でもある。
有坂は他に替えのきかない親友だ。
そんな親友の手助けはしたいと思ってはいるんだが…。
こと恋愛については、私に出来ることは限りなくゼロに近い。
ただ、中学と違って、同じ学校だから、まだ役には立つかもしれない。
もっとも、私が恋愛についてのアドバイスなど出来ないことは、有坂が一番知っているはずなのだが…。
『あの時は、ちょっとはしゃいでいた自分が恥ずかしいから、あんまり言わないでほしい…。』
こんなところが有坂は可愛くて仕方ない。
見た目だって、今は変にギャルのような恰好をして、恋愛マスター気取りだが、いかんせん実際の経験がないから、ふとしたことで恥ずかしがってしまう。
私だって経験なんてからっきしだが、あのふと恥ずかしそうになる有坂を見れば、好きになる異性はいくらでもいると思ってしまう。
そういったことを計算してできるようになれば、それこそ恋愛マスターにでもなれることだろう。
「言われたくないなら、変に隠さずにしっかりとどうしたいか言ってみろ。こちらも経験なんてないんだから、変な例え話をされても対応できない。」
『わかってるよ、そんなこと…。』
「それで、私に何をしてほしいんだ。悩みを聞けばいいという話ではないんだろう。」
『どうしてそう思うんだ、雅は?』
「電話をかけてきた時間が時間だ。もし、恋愛の悩みというか、ただいかに自分が彼のことを気に入っているのか?というようなどうでもいいことを、長々話そうというのなら、昨日の土曜の夜にかけてきている。」
『うぐっ。』