第189話 光人の脳
妹とお袋の激しい言葉に、片見さんだけでなく山上さんも柏木さんも驚いて固まっていた。
片見さんの物言いは既に3人で共有されていたんだろう。
だが、ここまでお袋と静海から反発があるとは思わなかったらしい。
「ああ、そうだな、片見。今のはちょっと行き過ぎた発言だ。」
山上さんが白石家の面々が怒ってることに反応し、片見さんを諫めてくれた。
「ああ、そうですね、言い過ぎました。ただ、光人君の変わり方が極端に思えたので、つい。」
「それは僕も思ってはいたけど。そういう事って、会社でもあるだろう?今迄から役職が上がって、人が変わったように頑張る奴。」
「はい、それは、よくわかってます…。光人君、舞子さん、静海ちゃん、言いすぎでした、ごめんなさい。」
素直に片見さんが頭を下げた。
「片見も反省してると思う。許してやってくれ。」
山上さんがそう言うと、俺を含め3人が頷いた。
「片見が暴走しちゃって、言わなきゃいけないことがすっ飛んだから、私が変わって、話したいんだけど…。いいかな?」
「まだあるんですか?」
「まあね。さっきの形見の言い分は研究に成果を入れたかったからなんだけど、本当は、このサプリで変な事が怒ってないかの検査をしてもらいたいんだ。」
山安神さんが少し下手にそう言ってきた。
「検査?」
「うん。このサプリを飲んで変な事が体に起きていないかっていう、ね。」
「いえ、でも、全然問題ないんですけど。」
「日常的にはそうでも、血液検査や、各種検査でもしかしたら副作用が見つかるかもしれない。おそらく異常はないと思うけど、念のためにってこと。」
山上さんがそう注釈を入れた。一応納得はいくけど…。
(ダメ、ダメ!それはダメだ。血液検査くらいはいいが、画像解析みたいなもので脳を調べるのは絶対ダメ!)
親父がめちゃくちゃ反対してきた。
「どうかな。人間ドックみたいなもんなんだけど。」
「いや、いいですよ、それ。この前倒れた時に血液検査して異常な死って言われてるし。お袋も、過労が酷かったんでそこら辺のチェックしてたよね。」
「ええ、問題なかったわね。栄養失調くらい。影人さんが亡くなったときかっら食事を受け付けなくなっちゃたことがあったから。」
(おお、いい感じだぞ、光人)
俺とお袋の答えに山上さんが少し頭を抱えていた。
静海はそういう検査はしてないが、二人も拒否てるのだから、今はどうでもいいだろう。
「そうですね。今のところは取り立てて以上もなさそうだし…。では半年後でどうですか?気軽に人間ドック受けてみるってことで。」
どうしても山上さん、というより片見さんっぽいけど、この検査は受けさせたいらしい。
親父は脳を見られるのを拒否しているけど、この親父の状態って検査機器で分かるようなものなのだろうか?
それに、この件を受けないと帰ってくれなさそう。
もう11時だ。
「わかりました。半年後に3人、その人間ドックを受けさせてもらいます。当然かかる費用は栄科製薬で出してもらえるんでしょう?」
「それは当然です。」
山上さんがいい笑顔でそう言ってくれた。
反対に俺の脳の中にいる寄生体が、えらく反対していた。
「でしたら、そういう事でお願いします。自分たちも、そのサプリで変な副作用が出た、なんていうのは嫌ですし。」
俺の言葉に山上さんだけでなく、片見さんも柏木さんもホッとした表情を見せた。
どうして、この話がそんなに緊張することなのだろうか?
(親父さあ、何か知ってるよね、この検査の意味)
(えっ、いやあ、別に…)
(おかしな逃れ方しても、本当にヤバそうに聞こえるんだけど、俺の頭の中で)
(いや、まあ、そうか…。あんまりこんなこと言うと光人が心配して、変な事言うかもしれないから言わなかったんだが)
(やっぱりなんかあるのか、親父)
(正直なところ何があるか分からんのだよ。光人の脳の中に私の人格が刷り込まれている。この現象が何を意味するかは分からないけれど、脳に何らかの作用がなされて、従来の脳とは形が変わってる可能性を想像しちまってな)
(な、な、なんだよ、それ!俺の頭がおかしくなってるというのかよ!)
(だからわからないんだって。この状態が普通じゃないのは解るだろう、光人。だからそれが脳に対してどのくらいの影響があるか分からないんだ。それで、万一、そんなことが分かる検査はしてほしくなかったんだよ)
(もう約束しちゃったからな)
俺からの半年後の検査の約束を取り付けて。今度こそ3人は変える気のようだ。
今後どうなるのか、俺には何もわからなかった。