第185話 アンケート Ⅰ
「とりあえずは、飲み始めは中学の入学頃ってことでいいかな?」
「まあ、そんなとこですね。正確にはGW明けですけど。」
「よく3年前の、このサプリの飲み始めなんか、覚えてるね。」
「中学受験に失敗しましてね、俺。だから、頭にいいサプリなんて、親父の当てつけにしか聞こえなかったんですよ。」
「それがまたなんで、飲もうと思ったんだい?」
「親父がそんなことをあてつける人じゃなかったって思ったのが一番ですが…。あとは、しがらみってやつを愚痴ってきまして…。自分も飲んでるからっていうんで、まあ、しょうがないかなって思って。」
「でも1か月もかかったわけだ、説得されるのに。」
「いやだって言ったのにすぐ飲むのは、ちょっと…、格好がつかないっていうか。」
「ああ、わかる、わかる。」
「中学から飲み始めたのは、一応実験で中学生以上は副作用とかが少ないから、みたいなこと、言ってましたね。そういえば…。」
「そういえば?」
「親父の飲んでるサプリは、カプセルのデザインが微妙に違うような気がしたんですけど…。」
「ああ、それね。一応、大人と子供で間違えないようにって、デザイン替えたんだっけかな?」
「そんなこと親父も言ってましたね。」
「それじゃあ、中1のGWから飲んだと。で、毎日ちゃんと飲んでた?」
「あ、それは、……はい。」
「違うな、その感じ。本当のこと言ってくれないと、こちらも困るんだよ。別に治療用じゃなくて、試作品のサプリのアンケートだからさ、もっと気軽に考えてくれていいよ。」
「そ、そうですか。まあ、そうですね、毎日は飲んでませんね、はい。」
「どのくらい?飲んではいたんだろう?」
「そうですね、ばらけてはいますけど、大体2日に1回くらいの割合、ですかね。」
「そんなとこだろうね。実はね、その使用頻度を見るために、さっきカプセルのデザインのこと言ってただろう?あれ、本当は4人それぞれデザインが違うんだ。というかカプセルに書いてある字ね、刻印っていうんだけど、それが違う。」
「え、じゃあなんであんな嘘を…。」
「それ先に言うと、すぐに自分がどれくらいで飲んでるかって、バレると思うだろう?本当のこと言ってくれるのはいいけど、先に白石影人さんが言ってたことと矛盾するとまずい訳だよ。で、影人さんが君に聞かれたときに本当のこと言うと、自分のカプセルを捨てて帳尻合わせしてくる人もいるんだよ。この販売前の試用アンケートでそんなこともあったんだよね。」
「言われてみれば…。」
「そんなわけで、今返してくれたサプリの数、ざっとだけどみてね、其れと今まで影人さんに渡した分から逆算して、光人君が言ってたくらいの頻度の使用だなとは思ってた。」
「そういうとこ、大人のやり口だなあって思います。」
「そのいい方は悪意を感じるね。」
「すいません。」
「攻めてるわけじゃないけどさ。でも、人って嘘つくんだよね。これはまだサプリだからいいんだけど、治療用の薬を飲んでないのに医師に飲んでるっていうだろう。それで医師はよくならないからって薬を増やす。また薬飲まないってやってると、実際に治療ができないばかりか、無駄な薬が増えていく。そういうことが実際にあるんだよ。」
「そ、そうなんですか?」
「君もさっき嘘ついたろう?」
「ああ、はい。」
「飲んでないのをちゃんと言ってくれるといいけど、そうすると怒られると思っちゃうらしいんだよ、患者さん。」
「なんとなくわかります。」
「そんな感じで、正直に答えてね、光人君。」
「わかりました。」
「で、こっからが本題。このサプリ、一応頭に良い、なんて言って服用してもらったわけだけど、どうかな飲んだ感想。まあ、飲みやすさ、飲みにくさでもいいよ。飲んでみて思ったこと言ってもらって。」
「う~ん、別にこれと言って変わったっていう感じは…。」
「いい方を変えよう。なんで毎日飲まなかったの?」
「なんでかな…。面倒くさいってのが、正直なとこですね。何か症状があって服用するなら当然飲みますけど。頭が良くなるかもしれないっていうレベルだと、寝る間の服用って、面倒くさいんですよね。」
「ああ、寝る前に飲んでた?」
「親父にそう言われて。」
「えっ、そうなんだ。ふーん。ちょっと待ってね。山上さん、ちょっといいですか?ええ……、そう、そうなんですけど………はい、あっ、そういうことですか…。わかりました。待たせて悪いね、光人君。」
「いえ、大丈夫です。」
「なんかね、君と妹さん、奥さんで飲み方を変えてたみたいで。」
「そうなんですか?」
「このサプリって、1日1回で、いつ飲んでもいいんだ。どうもその飲む時間での変化もみようとしてたんだね、君のお父さんは。君が寝る前、妹さんが朝、お母さんが昼だったらしい。」
「それで何か、分かりそうですか?」
「サンプルは君たちだけじゃないからね。もうちょっと多くとる必要があると思ってるよ。」
そういう片見さんの目は、少し温もりが消えていた。