第182話 モテモテ光人君
片岡則夫と柏木栞奈は何か俺を見る目が妙に冷たい気もしたが、何故かは解らない。
「そうなのよ、山上さん。私も聞いた時はびっくりしちゃってね。私は仕事でいけなかったんだけど、光人が倒れて、先生が送ってくれたんだけど…、何と同じ高校の1年生の美少女も一緒に来てくれたんだって。」
「ちょ、待て、待て、お袋。そんなことこの人たちに言わなくてもいいだろう!」
俺は、突如とんでもないことを言いだしたお袋の口を抑えようとした。
「そうなんだよ。なんかただの引きこもりだと思ってたら、凄くモテてんの!」
「おい、静海もやめろ!この人たちは関係ないだろう!」
俺の慌てぶりがおかしかったらしい。
山上さんはもとより、両隣の人たちも先程の無表情から、笑いをかみ殺している。
「何なんだよ、二人とも。今の話は今回のこの場には全く関係ないじゃないか!」
「いや、でも光人君が元気そうで…。それに舞子さんも静海さんも、大丈夫そうですね。」
笑いをかみ殺しながら、山上さんが優しそうな眼を俺たちに向けてきた。
(なあ、親父さんよお。俺のこと、山上さんに相談してたんじゃないか)
(まさか。私はもう死んだ身で、山上くんに連絡が取れるわけないだろう?)
(違うよ!俺がいじめにあったり、その後の引きこもりに近い生活状況だよ!)
(さて、何の話かな)
これは間違いなく、この山上さんに連絡とってやがったな。
俺のことがメインでないにしろ、俺の話をしていたわけだ。
だから、さっきの言葉が出てくる。
その後、お袋と妹を気遣ったのは、騒然親父の事故死に対してだろうけど…。
「まあ、何とか…。親父から何を聞いていたかはわかりませんが、何とか生活できてますよ。」
「白石先輩とは、ちょくちょく連絡は取らせてもらっていました。主に、今の薬業界の現場の話が主でしたが。ただ、先輩は奥さんのことも光人君や静海ちゃんのこともを本当に大好きで、そして心配していたんです。だからいっそう、今の皆さんの笑顔が見られて、私もほっとしたところです。先輩も、きっと安心していることだと思います。」
そう言って、また仏壇に視線を向けた。
この山上さんは、本当に親父と仲が良かったのだろう。
いい人だと思った。
親父が完全に照れて無言になってる。
「ありがとうございます。私たちも、影人さんが事故で亡くなったと聞いた時は本当に目の前が真っ暗になってしまいましたが…。光人が本当に頑張ってくれました。マスコミの対応も影人さんの友人の方の紹介で弁護士さんを頼らせていただきまして。今はなんとか影人さんのいない日常に、寂しいながらも、生きております。」
お袋の言葉に、山上さんも頷いていた。
これは、えーと、俺の動きを知ってる?
「そうですね。私も噂で聞いて、こちらの二人を含めた仲間で、記者会見での光人君の話は聞いております。先輩は本当にいいお子さんを育てたんだなあ~と思いまして。」
そう言って山上さんの言葉に、隣の二人が頷いていた。
特に女性、柏木さんは、さっきまでの無表情からは完全に変わり、目元にハンカチを当て始めていた。
おい!やめてくれええええええええええええ~~~~~~~~~~~~!!!
あの時の言葉に嘘はない。
嘘はないけどおおおおおおおお~~~~~~!
俺は心の中で悲鳴を上げていた。
とてもじゃないが、この場から一気に駆け出し、俺のことを誰も知らない地の果てまで逃げだしたい気持ちだった。
「お兄ちゃん、大丈夫、かなり顔が赤いけど。」
お袋越しに静海が俺を見て揶揄ってきた。
非常に楽しそうだ。
「本当にあの会見もさることながら、影人さんが助けた親御さんがうちに来た時に、同じ言葉をその親御さん、浅見さん夫妻にも言ってね。あの時には、この光人も大人になったな~と、感心したんですよ。」
お袋も一緒に俺の心を抉る攻撃をしてきやがった。
確かにあの時の言葉が、浅見さんたちの悲壮な顔を少しは明るくできたとは思った。
だからこそ、俺が前面に出ての記者会見を行うことにしたんだが…。
とんだ黒歴史を作っちまったああああああああ~~~~~~~~~。
浅見さんの前だけでやめときゃよかったああああ~~~~~~~。
俺はこの苦しさから逃げるための、最終手段に出た。




