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第178話 須藤の過去

 何とか大木さんの班の大江戸への対応に目途が立ったところで、あやねるがやってきた。


 そこでお開きとなり、俺と静海、須藤はあやねるたちと別れた。


 ちょっとあやねるが何か言いたそうにしていたが、もう伊乃莉は帰る気でしかないので、あやねるも何も言えなかった。


 こちらも静海が「これで帰る」と言って俺の手を引っ張った。

 その強固さに、あやねるも諦めたようだ。


 その際、伊乃莉から「今日の柊先輩とのこと、来週聞くからね」と言われた。

 本当は大木さんがいなければ、そのことを聞きたかったのだろう。

 その言葉を聞いたあやねるが「それ聞きたい」、と駄々をこねそうになったのを、伊乃莉が腕を掴んでさっさと地下ホームに連れ出して終了した。


 俺たち3人は伊薙方面の電車に乗り込んだ。


「なんか、須藤さ、伊乃莉といい雰囲気なんじゃない。今日の大木さんへのアドバイス、本気で感心してたもんな。」


「うん、私もちょっと須藤さんのこと、見直しちゃった。」


 静海も珍しく須藤を褒めている。


(あの方法は確かに有効的なんだよな。光人も覚えておくといいぞ。光人がいじめというか暴行されたときは、あの録音は非常に有効的だが、普段のことで録音を回しっぱなしという訳にもいかないし、下手すると、盗聴という事で、証拠として採用されない。拙くてもいいから時系列でメモを取っておくと、証拠として力強い味方になるんだ)


(でもさ、想像で後から書くことも出来るんじゃ…)


(素人がそういうことを書くと、矛盾点が出てくるものだし、証人もいれば、まあ、間違いない。今回は特に、いじめられた時のことでなく、大江戸君がいかにこの活動に消極的、というか何もしなかったかという証拠だから、次回のこういう事には、特に有効だ)


(そういうもんか…)


「おい、白石、なに黙ってんだ?」


 須藤が、俺に無言であることを責めてきた。

 静海とどういう風に喋ればいいのか、わからなくなってきたのだろう。

 俺を真ん中に左に静海、右に須藤。

 俺越しに話しているのに、一切俺が会話に入らないのは確かに不自然だな、これ。


「わりい、ちょっとメモの効用について、考えてた。」


「何を?」


「メモを取るのはいいんだが、奴の目の前でするべきか、その時はスマホの音声入力使ってとりあえずメモって、夜に整えるべきか?」


 俺の悩みに、須藤が「なんだ、そんなことか」と軽く返してきた。


「一人でやるにはしんどいけど、他の班員にもやってもらえばいい。できればその何とかって問題児の前で。当然、目につくから突っかかってくんだろう。ああ、周りに教職員課大人のいるとこでな。そこで「この班の記録を取ってる。だれが何の仕事をして、誰がしてないか」てなことをぼそりと言えばいい。冷静であればそこで終わるが、手を出してきたらすぐに大人に助けを乞う。実際の奴の非道が周りの人に見てもらえば、完璧。で手を出さず、そのメモの意味がわかれば、ポーズだとしても、一応手伝うだろう?」


「おお、須藤、凄いな。」


「中学のいじめを体験してると、いろいろ考えるさ。」


「いじめ?」


「僕、こんな感じだろう?結構嫌な目には合ってんだ。さっきやり返さない奴をいじめて来るって言ってたけど、そこまでの度胸はなかった。だからやられたことを日記にしていた。もともと文章を書くのは好きだったし、ね。」


 さすがに俺ほどではないにしろ、須藤も大変だったようだ。


「ちょっとした事件が中学で起きたんだけど、それを、いじめてたやつが、僕の友達に罪を擦り付けようとした。その時はずっと書き続けてたやつらの行動記録みたいな日記を先生に出したんだよ。それまではそいつら、それなりに先生の前で猫被ってたからね。最初は信じてもらえなかったけど、他の人たちも、そこに書いてあることの一部だけど支持してくれたりしてね。結局はそいつらが停学になった。明けてから報復されるかと思ったけど、学校の先生が目を光らせてくれたし、そいつらはいたたまれなくなって、転校していった。ここらは白石と一緒かな。」


 少し照れたような感じだ。


「そいつらからすれば、単なる暇つぶしで、罪悪感すら抱いてなかったんだろう。本当に馬鹿な奴らだとは思ってる。きっと、別の学校でも同じことしてるんじゃないかとは思うけど、停学を喰らってるというのは付きまとうからね。まともな高校にはいけないとは思うよ。」


 なかなか悪辣だな、と思ったが、おそらく須藤は停学とかを狙ったったわけではない。

 友人を助けようと思っただけなんだろう。

 逆に言えば、自分に対するいじめは耐え抜こうとしていたというわけだ。


 大江戸が何でこの高校に来たのかはわからない。

 まじめに勉強しなければ留年もあり得るし、もし日照大進学を考えているなら、最初からマイナスポイントを積み上げるのは得策ではないはずなんだが。

 とは言っても、そんな忠告を言ってやる気は全くない。


 そんなことを考えながら、途中で乗り換え、もうすぐ俺と静海の降りるひとつ前の検見駅に着く。

 須藤が座席から立ち上がった。


「ああ、そういえば、あの駅前のビル。幌被ってるだろう?」


 減速してホームに入る電車の中から、須藤の指さす建物に目をやる。


「多分あれが鈴木さんの言っていた店舗だと思うぜ。」


 もしかしたら夏休みにバイトすることになるかもしれない場所だ。


「じゃあ、また来週。親睦旅行で。」


「おう、じゃあな。」


「さようなら。」


 須藤が、電車を降りて行った。


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