第177話 大江戸対処法
大木さんが困っているのは解る。
同情もする。
とはいえ、俺が出来ることって何だろうか?
「本人にやる気が見られないっていうんなら、先生に相談するしかないんじゃない?」
ちょっと冷たいようだが、まずはそのクラスの責任者に話を通すしかない。
そう思って言ってみたんだが。
「さすがにそのいい方は冷たいんじゃないかな、光人。」
伊乃莉に睨まれた。
「一応先生には言ってみたんだよ。でも、まだ入学したばかりで馴染めないんじゃないかって。でも、大江戸君ってどう見てもそんな感じじゃなくて、私たちを馬鹿にしてるっていうか、変な見方をしてそうで。勇気出して、協力してくれるように頼んだんだけど…。」
「うるせえの一言だったよね。」
「うん。」
伊乃莉が心底嫌そうに言って、それを大木さんが肯定した。
「となれば、先生にも相談して、それでも本人がその態度。無視でいいんじゃないか。こちらがあいつに出来ることはやったし。ただ、何もしてない奴が一緒に飯食ったり、班行動を協力せずその成果だけ持って行くというのは嫌だな。」
「でしょう。」
伊乃莉が俺の言葉に同意する。
大木さんもコクコクと頷く。
「こんなことに自分の手間を増やすのは嫌かも、だけど。できれば班日記みたいなものをつけて、その、大江戸って人の行動を他の人の行動と共にメモとっとくのがいいよ。例えばカレーの分担で、他の班員が何をしてって書いて、大江戸君、なにも手伝わない。って感じでいいんじゃないかな。」
須藤がそんなことを助言してくれた。
「ああ、それいいんじゃない、ミッチョン。細かく書く必要はないけど、みんなが何して、その大江戸ってやつがいかに非協力的かわかればいいんじゃん。それがあれば、いじめではない、って証拠にはなるよ。」
須藤のアドバイスに伊乃莉がかなり乗り気だ。
「必要があれば、私も証人になるしね。」
「そ、そうか、そうだね。ありがとう、いのりん。それと、ええと、須藤君、だっけ。ありがとう。」
おお、大木さんの感謝の言葉に須藤が赤くなって、顔を伏せてる。
「お兄ちゃん役立たずだね。」
「うるせえ。」
静海のシニカルな言葉に、そう返した。
「そう言う「うるせえ」は、なんか微笑ましいんだけどね。」
俺の言葉尻を捕まえて、いのりが揶揄ってきた。
「まあ、とりあえず、対策はそんなもんだろう。それで大江戸についてだよな。俺がここにいる理由。」
「まあ、そんな感じ。」
既に一仕事終わったかのような伊乃莉の冷たいお言葉である。
「さっきも言ったけど、俺と大江戸の関係はよくない。特にあいつは俺をいじめていたグループの一人。そして、その件で学校側から怒られたことを根に持って、逆恨みしてる。」
俺の声に伊乃莉と静海が神妙に頷いている。
「詳しくは知りたいとは思わないが、あいつの基本的な態度は、悪いことは全て人のせい。自分では責任を取らない。面白そうなことにはホイホイ手を出すが、それで怒られると人に責任を擦り付けるようだ。見てて分かると思うけど、ワルを気取っていることが恰好いいと思う大馬鹿野郎。できれば関わらないことが一番だとは思ってる。」
「関わらなくて済むなら、こんなに悩んでないよ。」
大木さんが泣きごとを言ってるが、俺の言葉には耳を傾けている。
大木さんも俺の言いたいことは解ってるのだろう。
この親睦旅行さえ終われば、近づきたくはないというのが本音。
いや、親睦旅行すら、一緒にいたくないのだろう。
「光人の過去からすればそうなるだろうけど、ミッチョンの立場でそこまでは強く出られないよ。大体、ミッチョンは女の子だ。変にあとから絡まれるのも避けたいと思ってるんだよ。」
「その班にも男子はいるんだろう?」
「大江戸君に何か言うと凄まれて、怖くて何も言えないみたい。」
そういう態度取ってると大江戸みたいなやつは図に乗るんだよな。
「あいつは典型的な弱い者いじめをするタイプだ。自分に自信がなくて、自分より弱いものをいじめて、自分の優越感を満足させている。奴のバックに何もいないなら、しっかりと反撃しておけば、あとからは何もしてこない。俺がいい例だ。」
大木さんが、ちょっと言いずらそう似聞いてきた。
「白石君、なんかいじめにあったとか言ってたけど…。」
「ああ。大江戸と他二人からね。友達と親父に助けられたけど、それからあいつが俺に手を出すことは無くなった。他の二人が転校したという事もあるけどさ。」
聞いちゃいけないことを聞いたって顔で俺を見て、続いて伊乃莉に視線を移す。
「うん、私はそこら辺のとこは聞いてる。でも、光人は大江戸からガン飛ばされても、全く怖がらずに、逆に睨みつけててね。そうしたら大江戸の方が目を逸らしてた。そんな奴なんだよ、大江戸は。だから、さっきブンちゃんが言ってたように、親睦旅行で何があったかっていうメモ、重要だと思うよ。」
大木さんがその言葉に、少しほっとしたようだ。