第176話 悩める大木さん
校門にいた静海を巻き込んで、駅前のいつものファミレスに入った。
全員がドリンクバーを頼んだが、それだけでは口寂しいと伊乃莉がポテトとピザを注文する。
須藤君、ちょっと青ざめる。
「大丈夫だよ、一応奢るからさ。そんな顔しないでよ、ブンちゃん。」
須藤の顔色から正確に心情を読み取り、伊乃莉がそう言って微笑んだ。
きっと、須藤には女神に見えたに違いない。
須藤にとって恐怖の対象であるあやねる。
その友人という事で一歩引いていた感じだが、今は完全に下僕となりつつある。
みんながそれぞれのドリンクを持ってきて簡単な自己紹介をした。
「まさかとは思うけど、白石君、こんな可愛い妹さんにまで手を出してないよね。」
一通りの自己紹介が済んだと思ったら、大木さんがとんでもないことを言ってきた。
「だって、「女泣かせのクズ野郎」なんでしょう?」
まだその噂は消えてないか。
まあまだ10日も経ってないしな…。
別のクラスだし…。
「しょうがないんじゃない、光人。静海ちゃんが君にべったりなんだから。」
須藤の横に俺が座り、その横に静海がいるんだが、確かに肩が完全にくっついている。
下手すると腕を絡めてきそうな勢いだ。
「いや、その噂自体デマだし、実の妹にそんなことをするわけがない。」
「そんな格好を見せられたら、その言葉の信憑性、かなり低いよ。」
大木さんがかなり疑わしそうな目で見ている。
須藤はまったく他人のふりで、持ってきたオレンジジュースを飲んでいた。
「大木さん、部活は短めに終わったって言ってたけど、その後は伊乃莉を待ってたの?」
とりあえず話題をずらそうと、どうでもいいことを聞いた。
「終わって、しばらくは1-Fで待ってた。すぐに来てくれたけど、その須藤君と一緒で、待ってれば白石君来るからって。白石君の荷物が1-Gにあるからあそこで待ってたんだよ。本当に親睦旅行の班が不安なんだよ、私。」
かなり気に病んでいる様子だ。
俺が大江戸の情報を与えたら、もっと落ち込みそうだな、これ。
(そうだろうな。私から見ても彼の長所が見当たらないんだよ。生い立ちには同情するところもあるけどな)
(同情?)
(大江戸の母親は再婚だ。3度目の名)
(多いね、それ)
(最初の旦那さんは病死だって聞いてる。詳しくは知らないんだが。確か小学校に上がる前だ。次の相手が悪くてな。あんまり働かなくて、離婚調停してる。で中学入学時に今の旦那さん、大江戸さんと結婚して大江戸性になった。今の人はいい人でな、お前のいじめの時に子供を一生懸命かばってたんだ。だから親御さんしか、話し合いの件、特に事件にしないという話はしてないんだ。今は後悔してる)
(自分の立場を全くわかってない?)
(そんなとこだよ、あの態度を見てると。学校紹介の時の光人を見る目は、明らかに恨みだろう、あれ)
(関わらないのが一番なんだろうけどな。今の態度をとってれば、遅かれ早かれ、この学校にはいられなくなると思うんだが…)
(そうは言っても、大木さんは同じ班じゃな。完全に大江戸を無視できれば、全く問題がなくなるんだけど…。まだ学校が始まったばかりで、そんないじめみたいなことしたら、逆に班員が内申点落とすことになるもんな。1学期もあれば、教員も大江戸が悪いってことが分かるだろうけど…)
「大江戸についてはあることがあって、多少は知ってる。でも友好的な関係じゃないんだよ。どちらかといえば、逆恨みされてんだよな、俺。」
俺が大木さんを見ながらそう言ってみた。
伊乃莉が大江戸の関しては、ある程度知ってはいると思うから今更とも思ったが。
「うん。あんまり私から言っていいことだとは思ってないけど、光人はあまり関わりを持ちたくないとは言ってあったんだけどね。この前、相談に乗ってくれるようなこと言ってくれたからさ。つい、ミッチョンに言っちゃたんだよね。」
そんなとこだろうとは思った。
「本当にどうしていいかわかんないんだよ、白石君。私たちどうすればいいの!」