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第174話 応接室にて Ⅵ

 英治さんの話は、一応筋が通っている気がする。


(私もはねられてすぐに光人の頭に来ちゃったからな。その後のことは知りようがなかったんだよな。)


(でも、栗色の髪の毛の少女がいたことは知ってたんだろう?)


(それは当然だろう。今、この場にその時の二人がいるわけだが、二人が手を繋いでいるところを想像してみてくれ。絶対目が行くって)


(でも、その現場にいなかったことになってるって…)


(あそこで柊夏帆が倒れていたら、さすがに覚えてもいるだろうが、事故が起こって数分で母親がとんできて蓮君を介抱してれば、誰も呆然と立ち尽くしてた少女のことは頭から薄れる。仮に覚えていても、すでに保護者らしき人がいるんだ、大ごとにはせんだろう。これが蓮君を突き飛ばしたというのなら話が変わるが、信号は青に変わって、待ちきれない少年が少女の手を振り払って駆け出したんだ。誰も問題視しないよ。悪いのは明らかにトラックだしね。)


(そう言われれば、そうか。俺の頭にはあの夢が刷り込まれているせいか、そんな考えは出てこなかった)


 俺が少し頭の中の親父と会話してたため、少しの間が出来た。

 それが俺が何かを考えていると英治さんは判断したらしい。

 じっと俺を見ていた。


 横からは静海の視線を感じる。

 そんな静海を蓮君が見上げていた。


「その時点で、助けられたという事を全く私は考えていなかった。それは事故現場を見れば可能性としても考えられたし、近くで見ている人に聞けば、すぐわかったことだろうと思う。気が動転していた、と言ってもいい訳にしかならないね。ただ、夏帆のことが心配で、家に連れ帰り、とりあえず水を飲ませて落ち着かせた。それと妻の好きなラベンダーが主体のアロマを少し焚いた。気分を落ち着かせる効果があると聞いていてね。」


 そこで話を切り、俺から柊夏帆に視線を移した。

 コクコクと小刻みに頷いている。


「その後、話を聞いて、夏帆を連れ去ってしまったことがまずい、とは思った。すでに警察から妻が事情を聞かれ、さらにどういった状況で事故が起きたか、話してくれた目撃者の人もいたらしい。巻き込まれるのが嫌で、その場から立ち去った人も多かったらしいけど。つまり夏帆もその一人。だけど、そんなことになったら事故にあった子供を見捨てたとも言われかねない。私が勝手にしたことだと言っても、警察は信じるだろうけど、面白おかしく書く週刊誌もある。特に夏帆は一部ではモデルとして名を知られていた。まだ高校生で本名を不特定多数に知られるのも怖い。私は、夏帆がその場にいなかったことにしたんだ。夏帆は嫌がったけどね。」


 その言葉には柊夏帆は無表情だった。

 それは沈黙による不同意と取っていいのだろうか?


 英治さんの話には疑うところはない。

 だが、何かが引っかかる。

 そう、何かが……。


「現場検証の結果、青信号で渡り始めた蓮君に、信号を無視したトラックが突っ込んできた。そのことに気付いた親父が飛び込み、蓮君は助けられたけど、親父はそのままトラックに轢かれ、命を落とした。ということですね。」


「誠に申し訳ないが、そうなってしまった。」


「大丈夫です。この子を救えたんだ。親父も後悔はないと思います。」


(ああ、私には、後悔はないよ)


 親父も俺の言葉に同意した。


「ただね。多少正気を取り戻してからの夏帆の言動には困った。あの場所にすぐに連れて行け、あの人に合わせてほしいって繰りかえしてね。」


 沈痛な面持ちで俺を見ている。


「私は確かにあの場所にいたの。事故が起きるほんの少し前まで。蓮の手をしっかりとつかんでいれば、ああはならなかった。」


「でも、青信号だったんだよね、蓮君。」


 俺は柊夏帆ではなく、静海の膝に座っている蓮君に聞く。


「う、うん。青だった。」


「であれば、悪いのはトラックの運転手です。蓮君も柊先輩も落ち度はない。そうですね、先輩。」


「そ、そうだけど…でも…。」


「前にも言ったかもしれませんが、蓮君も柊先輩も悪いことはしていないんですから、そんな悲壮な顔はやめてください。」


 俺の声に、少しの間俺を見つめてから、「うん、わかった」と小さな声で言った。


「事情は分かりました。俺と妹はその話を柊先輩の友人、岡林先輩に聞いてから、納得できない想いがあったんですが、今、氷解しました。出来るだけ早くに母にも、浅見家の肩と顔を合わせる機会を作りたいと思います。」


 俺の言葉に、浅見夫妻が深々と頭を下げた。

 その様子を静海の膝から見ていた蓮君も頭を下げたのを見て、静海が「可愛い、蓮君」と言って、また抱きしめていた。

 そうするたびに、斜め前に座る柊夏帆の視線が槍の様な冷たく鋭敏なものに変わって、静海に向いていた。


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