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第172話 応接室にて Ⅳ

 まじまじと静海が蓮君を見ていた。

 蓮君が見つめられて、不思議そうに静海を見ている。


「ねえ、蓮君。よかったらこっちに座らない?」


「えっ?」


 静海の言葉に、俺は思わず声を上げた。


「いや、静海。こっちは二人掛けだから、それは…。」


 俺は思わず、静海の顔を見ながらそう言った。


「大丈夫だよ。」


 そう言うと、ポカンとした蓮君の後ろから両脇に手を入れ持ち上げて、自分が椅子に腰かけると同時に、自分の膝の上にのせてしまった。

 そして後ろから抱きしめた。


「お前、何やってんだよ!」


 思わず俺が大きな声を出してしまった。


「だって、蓮君、天使みたいですんごく可愛いんだもん!」


 静海の言いように呆れてしまった。

 確か、柊先輩が今抱いている少年の関係者と知った時の静海の荒れようを知ってるだけに、当の本人にその態度って…。


 抱きしめられている蓮君も、最初は戸惑っていたようだが、されるがままになっている。

 その様子を見ると、こういうことは初めてじゃない?


 柊先輩を見ると、わなわなと震えながら、「私の天使を……」という怨嗟の呟きが聞こえてきた。

 普段の柊先輩と蓮君の関係が垣間見れた。


「すいません、浅見さん。妹がとんでもないことを。」


 俺は振り返って、浅見夫妻を見た。

 自分の息子を手籠めにしようとする女に対しては、さぞ冷たい目をしてるかと思いきや…。


「ああ、大丈夫ですよ、光人君、静海さん。蓮はいつもそこにいる夏帆や、妹の秋葉に同じようなことされて慣れてますから。」


 そうか、柊夏帆だけでなく、秋葉さんにもか。

 この蓮君の将来、変に女たらしにならなければいいんだが。


 俺は静海と蓮君の横に腰を下ろした。


 柊夏帆の冷たい視線は静海に向かってる。


「蓮と仲良くしていただければ、親の私たちもうれしいんです。」


 それは間違ってないと思うけど。


 横を見ると静かに抱かれてる蓮君は、まるで大きなぬいぐるみか何かに見えてきた。


 俺はすでに涙は止まっていたが、ハンカチで軽く目の周りを拭い、浅見夫妻に視線を向けた。


「蓮君が元気で本当に良かったと思ってます。静海も蓮君を好きになったようで、安心してます。」


「そう言ってもらえると、私も安心しました。」


 にこやかに俺を見る英治さん。

 ただこれで終わりではないだろう。

 それに俺は是非聞いておきたいこともあった。


「夏帆から、もしかすると話を聞いているかもしれませんが、出来れば白石影人さんの墓前にお参りをしたいと思っています。影人さんの奥さん、白石舞子さんにも挨拶に伺いたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」


 俺はちらりと、蓮君を膝に座らせている静海を見た。

 静海も俺の動作に気付き、こちらを見た。

 視線が交差し、どちらからともなく頷いた。


「俺も妹も、浅見さん家族が俺たちの父の墓前にお参りしていただけるのは、大変喜ばしいことと思っています。ただ、母の気持ちの整理にはもう少し時間がかかると思うんですよ。明日、父の友人や恩師が父に線香を上げに来てくれる予定です。その時の母の対応を見て切り出してみます。とりあえずは時間を頂けますか?」


 俺は自分たちの感情的には浅見蓮君を受け入れている。

 そのご両親を母と合わせることには反対の理由はないはずだった。

 だが俺も、そして親父もどうしても引っかかっていることがある。


「それは当然、お母さんの状況に合わせてもらって構わない。光人君と静海さんが蓮と親しくしてくれることは、大変嬉しいことなんだ。」


 俺は斜め前に座った柊夏帆に顔を向けた。


「先輩にも、時間が欲しいという事は言ってたと思うんですが。」


 この先輩は事を急ぎ過ぎている。

 何か焦りでもあるのか。


「ああ、うん、確かに、そんなような話をしたけど…。私たち姉妹で踊ることは、私にとってもちょっとした夢だったの。で、その話をしたら浅見の家が見に来てくれるって言ってくれて…。特に蓮ちゃんが見てくれるかと思うと、モチベーションも上がってたの。そしたら秋葉が、後輩が白石兄妹を公開練習に誘ったと聞いてね。できればこんな偶然、そうそうないから、挨拶をさせてほしいって思ったの。」


 偶然?

 それを信じる程、俺はお人よしではない。


「今回の件は、強引な先輩に礼を言わせてもらいます。父が救った蓮君の元気な姿は、俺にも妹にとっても、父の行動が間違っていなかったと思えましたんで。」


「そう言ってもらえると、私も救われるわ。ありがとう、光人君。」


 納得できないことはある。

 ここで一つはっきりさせた方がいいだろう。

 母に合わせる前に。

 目の前の浅見夫妻が悪い人には見えない。

 それでも、あの事故の時の行動は、あまりにも利己的な気がする。

 この場が、その行動の真意を聞くのには最適だと考えた。


「英治さん、一つ聞きたいことがあるんですが?」


 改まった俺に、英治さんがその身を乗り出し、真正面からそのダークブラウンの瞳を向けてきた。


「何故、事故現場にいた柊夏帆先輩を、その場から連れ去ったんですか?」


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