第167話 柊姉妹のユニット
柊姉妹がステージの前、中央に二人で並んで立っている。
そこに照明が当たっているのだが、その光が二人の姉妹の特徴でもあるダークブラウンの髪の毛に反射し、その明かりに煌めきを放っている。
二人ともそこにいる人々を魅了する笑みを浮かべている。
「はい、もう皆様、ご存じの生徒会書記としても、ファッション誌の読者モデルも務める柊夏帆さんと妹の秋葉さん、二人のユニットがここに特別に結成されました。この公開練習でのサプライズショー、皆なさま楽しんでくださいね。」
部長の声に、拍手が巻き起こった。
「柊夏帆さんは高1のときまで、我がダンス部で活動をしていました。ここに集まってる方はよくご存じだとは思いますが、バスケ部の狩野瑠衣さんと一緒にいるところをファッション雑誌に編集の方にスカウトされ、今もご活躍中です。このためダンス部を辞めざるを得なかったわけです。しかし、受験が本格化する今の時点で妹さんの秋葉さんと舞台に上がり、踊りたい、と部長である私、小淵沢鏡湖に相談がありました。」
部長が自分の存在感をアピールしているようにも思える内容だが、観客は、部長のアナウンスの一言一言に喝采を上げている。
「さすがに夏帆は、この部を辞めて2年近くが経ちます。ですので、我々のようなダンスはさすがに難しいだろうということで、少し前に流行ったドラマのエンディング、SNSで多くの方が踊るシーンも配信された人気のこの曲を踊ることになりました。それでは皆さん、楽しんでくださいね!ミュージックスタート!」
聞いたことのある曲が流れ始めると、中央の姉妹がそれぞれダンスを始めた。
今でもよく耳にする大ヒット曲だ。
そのドラマのエンディングでは登場人物二人が、その立ち居亭ではあるけど、結構器用な踊りをしていた記憶がある。
(懐かしいな、この曲。舞子さん、お母さんとよく見てたよ)
(このドラマ見たことあったの、親父)
(リアルタイムで見ていた。そしてこの原作の漫画も買って読んだほどだ)
(そんなにおもしろいんだ。うちにあったっけ?見た記憶がない)
(たぶん、どっかにはあるとは思うんだが…。話は面白いよ、うん)
(なんか微妙な言い回しだな、親父。引っかかることでもあった?)
(ちょっとね。舞子さんは問題なく楽しんでいたけど…。私はこの主人公の設定が、ちょっと…)
いやに持って回った言い方をするな。
(いや、大したことじゃないんだが。この主人公、大学で就活をするんだけど、どこもダメでね。仕方がないから大学院に進学するんだよ)
(ああ、それ、なんか、聞いたことある)
(そうか。こういう時代だからな、光人も聞いたことがあるレベルなんだな…。で、主人公は大学院に進学するんだけど、結局就活に失敗して、派遣社員になるんだ。でもそこの会社の業績が悪くなって、真っ先に主人公が首切られて、仕方なく個人の家政婦としてバイトみたいなことを始める。その働きに感動して、その二人が形式結婚をしてッていう流れなんだけど…)
(それのどこが気に入らないの、親父としては?)
(私はね、大学進学以前から大学院志望だったんだ。研究職に就きたいってのもあったんだけど、実験が好きでね。なりたくて、大学院に進学したんだ。それを就職に失敗したからと言って、大学院に行くっていうことが…どうしても…なんか、やなんだよ)
(ああ、なんとなく、納得)
親父がどうでもいい事で、元気がなくなっていった。
(ドラマの話はいいんだけどさ、親父)
ステージで輝きを放ちダンスを続ける柊姉妹。
これは男子全般と女子からも非常な熱気が伝わってくる。
その時、2回観客席の中央から、「お姉ちゃん、がんばれ!」と言う可愛い男の声がこだました。
そこには柊さんの親戚の浅見蓮君、その両親と柊姉妹の母親が座ってみていた。
蓮君は立ち上がって手を振っている。
その光景が二人には見えたのだろう。
その声と手を振っている男の子に、大きく手を振り返した。
大会では大きな減点になるかもしれない行為だが、この舞台はあくまで公開練習に過ぎない。
そういう応援も、それに応える対応も、周りの熱気をさらに盛り上げているようだ。
あの席は確か関係者以外は入れないようにしてあった席である。
彼らは特別なのだ。
(この俺たちと自己関係者の浅見家の顔合わせ、偶然なのかな)
俺は親父に、ぽつりと言った。
(何とも言えないな。部活を辞めていたはずの柊夏帆があの舞台で踊っているという事実。まあ、部長さんが言っていたことは十分説得力を持っているとは思うんだけど)
(思いっきり奥歯にものの挟まった言い方だな)
(タイミングが良すぎるんだよ。入学式の日、彼女の光人に対する態度、お前はどう思ってる?)
(唐突すぎて、面食らった)
(そして警戒感を持った)
(まあね)
(柊夏帆は結構考えたらすぐに動くタイプ、言い方を変えればかなりの短気、そうは思わないか?)
(それはそうだな。あの態度は、かなり拙速すぎる。特にどうも校舎案内も、わざわざ俺たちのクラスになるようにしたきらいがあるし)
(だが、入学式の時の失敗を彼女自身もわかってる)
(確かに)
(柊夏帆としては、何とか光人に近づきたかった。だが、光人に関しては警戒心を与えてしまった。彼女としては、恩人である人、つまり私だが、の息子にあたる光人と浅見家を合わせたい、それどころか静海や私の妻である舞子さんとも親交を深めたいと考えていた。それを失敗した。ではどうすれば良好な関係を早く築けるのか?)
(このダンス部の公開練習を利用した、っていうのか?)
(おそらくは)
親父が肯定した。