表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/401

第166話 柊夏帆 ⅩⅢ

 秋葉の所属するダンス部は中・高合わせて50人くらい所属する人気の部活だ。

 私が中学3年間と高校1年の数か月所属していた。


 別にきわどい恰好で踊っている訳ではないのだが、それなりに大会などでは可愛い衣装で踊ることが多い。

 踊りが激しいものでは体の線がわかってしまうようなきつめのコスチュームの上にゆったりとしたベストを着て踊ることもあった。


 中学の頃には、皆から奇異の目で見られることもなく、可愛いとか綺麗、ダンスを踊っている時は長い手足が功を奏して、カッコいいという評判に、自尊心をくすぐられ、自己肯定感も上昇した。

 もともと一度見ればある程度、教科書もダンスも覚えてしまう能力もあったので、学校の評定を落とすことなくダンスも楽しんでいた。


 だが高校に進学すると、私を見る目に明らかに不快なものを感じ始めた。


 今では部長を務めている小渕沢鏡湖に相談すると、彼女もそう言った視線が気になるとは言っていた。

 でも、注目されることは、その不快感を越える程の気持ちよさがあるとも言っていた。


 その気持ちはわかる。

 中学生で高校のお姉さんたちの後ろで踊り、たまにフロントに出た時の視線の圧が心地よかった経験もあった。


 でも高校に入ると、ダンス以外でそういう不快な視線が体にまとわりついてくる。


 初めて告白されたときの男子は1つ上の、女子から人気のある男子だった。


 普段はその爽やかな容姿に胸を躍らす同級生がいることも知っている。

 私も普段見ている時はそんな思いもなかったわけではない。

 だが、呼び出され、いざ告白されたときの彼の目。

 それはいつも感じていた不快な視線だった。

 私の素足を見て、腰回りを見て、胸に移り、唇に視線が来た時には身の毛もよだつ悪寒に襲われた。

 一気にいじめられた時の感覚が自分の心に溢れる。


 私は「ごめんなさい!」とだけ言ってそこから逃げた。


 すぐにそのことを鏡湖や香音に言った。


 その先輩の親衛隊みたいなやつらが、私の悪口をかなり広めようとしたが、すぐに学校側、特にその時担任だった石井先生が庇ってくれたため、大ごとにならなかった。

 その後、その容姿だけは爽やかな先輩男子は、何人かと同時に付き合い、他の高校の年上の女性を妊娠させたとかで、自主退学したみたい。

 私には興味のない話ではあったが、あの時の蛇が絡みつくような視線の恐怖からなかなか抜け出せず、他にも嫌な視線にさらされたことから、ダンス部をやめることになった。


 鏡湖はその後もダンスを続けて、今では部長だ。

 ただ、練習や後輩の指導に時間を取られ、一緒に行動することは少なくなり、私は大島香音や狩野瑠衣と休みの日はよく一緒になることが多くなった。

 そしてスカウトされたのだ。


 それでも小淵沢鏡湖とは今も親交はある。


 今回のダンス部の公開練習は年に3~5回程度計画されており、年度初めの2か月前くらいに学校側に申請されていた。


 妹の秋葉も無事に特進クラスで高校に進めたため、ダンス部を続けることは私や両親にも了解を得ている。

 私が男性の卑猥な視線に耐えられなかったが、直接的に何かをされたことはなかった。

 秋葉は可愛い、よい妹だけど、微妙に私を意識していることがある。

 勉学に関してはそれほど差はないと思っているのだが、私がファッション誌の読者モデルなんかをしてしまったことにより、どうも劣等感を抱いてる気配がある。

 だからこそ、私が途中でやめたダンス部を続けるという選択をした気がしてならない。

 まあ、私の思い込みという気もするけど…。


 今回の公開練習に関して、私には秘めた思いがあった。


 私がダンス部のステージに妹の秋葉と一緒に立つこと。


 これが大会とか、学外のイベントでは許されないことなのは解っている。

 でも、学内の公開練習ならば許されるのではないか。

 そう思い、鏡湖に相談した。

 最初は驚いたが、すぐに私の考えを認めてくれた。

 顧問を務める青柳秋乃先生も、私の参加を喜んでくれた。

 もう一人の顧問の小嶋悠香先生は青柳先生の許可に異論は出さなかった。

 ちょっと渋い顔はしていたけど…。


 1年で辞めた生徒が私的な理由で参加するのは、いい気分はしないだろう。

 でも私は、自分の価値を知っている。

 ほとんどこの高校の広告塔的な存在になっている。

 現時点で、ファッション誌のモデルであることは口外はしていないし、学校側も率先して宣伝はしてはいない。

 でも、卒業してもこのバイトを続けるのであれば、「あのモデルがこの高校の卒業生」と大々的にパンフレットに乗せる算段なのは解っている。


 私と妹が同じステージに立つ。

 これを名目に両親と浅野の叔父叔母を招くことが出来る。

 秋葉だけでも招待状はもらえるのだが、インパクトが弱い。

 そして、彼らが見に来るということであれば、あの兄妹と合わせることが出来るかもしれない。


 ただ、この目論見通り、あの兄妹がこの公開練習に来てくれなければ意味がない。


 それでも、私は1週間という短い練習で、今回のステージ用の曲の振り付けを覚えた。


 読者モデルとはいえ、まずはそのスタイルの維持は必須だ。

 だからこそ、簡単な走り込みなどの運動は続けている。

 3年以上ダンスは踊ってきたので、ブランクはあっても、1曲だけであればなんとかできる。

 と言うより出来て見せる。


 本来ならもっと先の顔合わせとなるところを、こんな機会を見逃すことなど私にはできなかった。


 入学式での私の強引な方法は、明らかに彼の不興を買ってしまった。

 その時から練習はしているのだが、どうも妹さんの私に対する態度もあまりよくない気がする。


 そんな時、中学生の部員が妹さんと仲の良い子で、さらに妹さんを通じて彼を公開練習に誘ったことを聞いた。

 私は宍倉さんを通して招待状を渡すつもりだったが、渡りに船だった。

 さらにその子を使って呼び出すこともできる可能性を思いついた。


 父はその日は仕事の絡みで出席はできそうにかかったけど、浅野の叔父叔母は二つ返事で快諾してくれた。


 私にとっての舞台は整った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ