第165話 特別観覧席にて Ⅱ
最近流行ってる音楽に合わせて、おそらく選抜されたメンバーなのだろう人たちが、ダンスを始めた。
部員数から考えると半分くらいの人数だ。
その中に柊先輩の妹さん、秋葉さんも、静海の友人である神代さんも入っていた。
中学2年でどのくらいの人がいるかはわからないけど、素質はあるのだろう。
背丈に比べれば長い手足が、ダイナミックに動いている。
たまに、周りとあわない時もあるが、その時に見せるコケティッシュな表情は、非常に魅力的だ。
柊秋葉さんは、安定して綺麗に踊っているようだ。
他の高校生と思われる女子も、ミスが少ない様な気がする。
だからなのか、ミスをしたときの表情も相まって、神代さんの存在感が凄い。
さっきまで不安そうにしていた静海も、友達のハツラツした動きに魅入られているようだ。
音楽が徐々に小さくなり、その音が消えたところで、ダンスが終わった。
盛大な拍手が観客から起こり、さらに友人たちから歓声が沸いている。
「お前の友達、凄いな。」
隣の静海にそう声を掛けた。
静海は胸を張り、やけにドヤ顔である。友人を褒められてご満悦な様子だ。
「レイアは勉強も運動もできるけど、踊ってるときが一番生き生きしてんだよ。」
自分のことのように自慢してきた。
「確かに、静海ちゃんのお友達、ミスも目立ったけど、楽しそうに踊ってたよね。上級生がこの観客に委縮してるように見えたのとは、えらい違いだった。」
伊乃莉がそう感想を告げる。
その言葉にさらに静海に鼻が高くなっている。
「白石の妹さんのお友達も印象的だったけど、あのセンターの女子。ダークブラウンの髪がさっきの柊先輩に被るんだけどさ、えらく輝いて見えたな。」
瀬良が流石の嗅覚で、メインの女子をピックアップしてきた。
瀬良が認めてるから、景樹には柊秋葉さんを推しておこう。
「あの子、瀬良の言う通り、柊先輩に被って当然だよ。あの子、柊先輩の妹さん。同じ学年で特進クラスだ。」
「どうりで、似てるわけだ。でもさ、白石。柊先輩に結構冷たい割に、詳しいな。」
「別に冷たくしてる自覚はないよ。でも、出来れば近づきたくないってのはあるけど…。」
「そこが俺にはわからん。そりゃ、付き合えるとは思わないけど、あんな綺麗な人と友好的な状態は、みんな作りたいと思ってるけどな。」
しみじみと瀬良が己の欲望をさらけ出していた。
そこがこの男のいいところでもある。
「俺が普通の一般男子ならそう思ったかもしれないな。」
「何言ってんだよ、お前。白石は何処から見たって、普通オブ普通の男子高校生だろう。」
こういう言い方は、なんだか救われる。
「うん、基本的にはそうだ。別に極端に優秀でもなく劣ってもいない。これと言って、光るものもないからな。」
「いや、そこまでは言ってない。」
そう言って笑った。
つられて横の須藤も笑いながら肯定する。
俺は運がいいのかもしれない。
この二人や景樹と直ぐ仲良くなれたんだから。
「でも、俺の親父が助けた子は、柊家と親戚だった。これはちょっと、偶然でも、あまりうれしくない。」
「そういうもんか?」
「だって見ただろう、あの柊先輩の態度。そりゃあ、うちの親父に恩があるのは解るけど、俺に対する態度はおかしいよ。俺は何もやってないし。」
俺がそう言ったときだ。
須藤が神妙な顔をして口を開いた。
「子供を助けるためにした親父の行動は、誇りだ。だっけ?」
俺の心に言葉の刃が突き刺さった。
「こんな言葉を遺族から言われたら、感謝以上の気持ちを持つと思うぞ。その助けられた家族の人は。助けてくれた人にはそれ以上に申し訳ないと思ってるんだ。その遺族が助けられて罪悪感を抱いてる時に言われたら、挨拶の一つもしようって気になると、僕は思うけどね。」
「そう、かなあ~。」
俺が二人の言葉に納得しきれていないときに、隣の静海が俺の手を引っ張った。
「ちょっとお兄ちゃん!」
そう言って、ステージを指さす。
そこに二人の美少女がスポットライトを浴びたところだった。
「では、これから、今回だけのスペシャルステージです。」
部長の声で観客の注目が集まる。
同じダークブラウンの髪の毛をポニーテールにしている少女たち。
「柊姉妹をメインにした、ダンスステージ。皆さん盛大な拍手、お願いします。」
第二体育館がどよめきと拍手、歓声で揺れた。




