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第163話 ステージ脇

 少しだべりながら練習風景を見ていたが、やっぱりこのダンス部は全国を目指してるだけあって、かなり厳しい指導がされている気がした。

 「公開練習」でこの厳しさということは、実際にはもっと厳しくなるのだろう。

 新入部員のどのくらいが残るのだろうか、少し心配になった。


「あれ、れいあ!どうしたの?練習抜けて大丈夫?」


 気づいたら、伊乃莉の横の通路側に神代麗愛さんが立っていた。

 少し息が荒いのは練習後だからだろう。

 額や首筋の汗をタオルで拭っているが、追い付かなそうだ。


「うん、ルナ。悪いんだけど、顧問の青柳先生にね、頼まれちゃって。お二人を連れてきてほしいって。」


「ん、お二人って、私とお兄ちゃん?」


「そう。なんでかは私もよくわかんないけど、友達も一緒でもいいって言ってたよ。」


 神代さんが俺たち5人に向けていった。

 俺たちは顔を見合わせる。


 なんで?


「どこに行けばいいのかな?」


 伊乃莉はかなり好奇心丸出しの顔で立ち上がり、自分より低い神代さんに向かって言った。

 ちょっと見上げる感じで視線を伊乃莉に向けて、その視線を静海に移した。


「ステージの脇に来てほしいみたい。そこに会わせたい人がいるとかで。」


 静海が俺を見た。

 事情がよく呑み込めないが、とりあえず静海に向かい頷く


 俺が立ち上がると後ろの二人も立ち上がった。


 そのまま神代さんに従ってついていく。

 観客席がある2階の通路からステージに向かう階段があった。

 そのまま降りると、神代さんが軽くドアをノックした。


 ドア額とそこには数人の人影が見えたが、暗いせいで顔はわからない。

 なんか大人がいるんだけど…。


「白石兄妹と友人、お連れしましたよ、柊先輩。私練習に戻りますね。」


 神代さんはドアを開けてそう中に声をかけるとすぐにドアを閉めた。


 まさかこのまま連れ去られるとかないよね?


(その中二病はそろそろ卒業したほうがいいんじゃないか、光人)


(自分の脳内に、自分の親父を飼っている状態、どう考えても中縫い病継続状態ですよね、親父さん)


(んぐっ)


「ごめんなさい、こんな呼び方をしてしまって。神代さんが静海ちゃんと光人君をこの「公開練習」に誘ったって聞いてね、どうしても挨拶したいって。」


 少し暗さに慣れた視界にきらびやかなダークブラウンの髪の毛が舞った。


 本当にこの人の存在自身が、「光」なんだな。

 俺は素直にそう思った。

 その感情の周りにある負の存在すらも消してしまうほどの、輝き。


 柊夏帆。


 何でここにいるのか、なぜわざわざこのステージの脇に呼ばれたのか?


 ほかの友人が一緒に呼ばれたのは俺と妹が警戒しないように、ということなのだろう。


 ほかに三人の大人。

 うち二人には見覚えがあった。


 そして小学生らしい男の子が一人。

 会うのはこれが、たぶん初めて。


 浅見蓮君。まず、間違いはないだろう。


 俺は後ろにいる静海を見た。

 静海も何が起こっているか、判断に迷っているようだ。


 伊乃莉も須藤も、瀬良さえも、今は何も言わずに事の成り行きを見ているようだ。

 それはそうだ。

 この状態が何を意味しているのか、第三者が分かるほうがどうかしている。


「説明はしていただけるんですよね、柊先輩。」


「ええ、本当に申し訳ないと思っています。でも、うちの家族がどうしても白石光人さん、そして静海さんに会いたいと言ってきかなくて…。」


 そういう柊先輩を手で退けるような仕草で一人の男性が前に出てきた。


「その節は本当に申し訳ないことをしました。それでも君の言葉に救われた一人です。浅見蓮の父親、浅見英治です。今は簡単に挨拶を済ませていただきたい。場所が場所ですから。」


 そう言ってその男性、浅見英二さんが深々と俺と静海にお辞儀をした。

 そのお辞儀に呼応するように、柊先輩と後ろにいる女性二人、そして浅見蓮君が頭を下げる。


「このステージが終わってからこの学校の応接室で正式に挨拶をしたい。時間をいただけますか?」


 英治さんの声に俺は静海を振り向く。

 少しおびえたような静海の右手を握った。


「お前の心の整理がつかないようなら断る。どうする?」


 俺の言葉に、首が横に振られるかと思ったが、それを思いとどまって首を縦に振った。


「だ、大丈夫だよ、お兄ちゃん。この子が悪いんじゃないことは、わかってる。」


 そう言って小学生の男の子を見た。

 その子は少し震えるようにしていたが、それでも静海を見てにっこりと笑った。


 そう、親父はこの子の笑顔を守るために…。


「わかりました。ではこの後に、学校の応接室?ですか、そこで改めて。」


 俺の声に後ろにいた女性二人も頭をもう一度下げた。


「じゃあ、白石君たち、こっちに来てくれるかな?」


 柊先輩がさっきとは違うドアを開いた。

 その先には生徒会のメンバーが座っている姿が見えた。さらに、その先に新しいパイプ椅子が設置されている。


「先輩、別に俺たち、逃げませんよ?」


「これはそうい意味ではないわ。あくまでもよく見える位置に招待しただけ。」


 そう言ってその椅子に座るよう、促された。


「なあ、白石。俺たち一緒にここにいていいのか。今の雰囲気、明らかにおかしかったぞ。」


 瀬良が久方ぶりにまともなことを言ってきた。


「いていい、と言うよりいてくれ。柊先輩たちのところに俺たちだけを置いてかないでくれ。」


「そういうならそうするけどさ。」


「あとで、何が起こったか説明してよね、光人。」


 伊乃莉が俺の耳元にそう言ってきた。

 伊乃莉の息が俺の耳をくすぐって、変な気分になる。


 生徒会の席からあやねるが膝に置いていた右手を小さく俺に振ってきた。


 俺はそんなあやねるに軽く笑みを返し、指示された椅子に座り、間近で練習しているダンス部の女子たちを見た。

 だが、何を見ているのか、自分でよくわからなくなってきた。


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