第162話 「公開練習」の理由
最初に、今までのダンスを見せた後には、本当に練習になった。
今演じたダンスをその「るるぽーと」でやるのかどうかは知らないが、今のダンスでのダメだし?注意点、などが先輩部員や、顧問、特別な自動員なのか学外から来たことを示すネームカードを首からぶら下げている人が口頭だったり、実際に動いたりして教えてる。
それが普段の練習スタイルなのか、それとも「公開」でおとなしめなのかは俺にはわからなかった。
「なあ、静海。お前はこういう公開練習って何回か見たのか?」
少し考えるポーズをしたのちに口を開く。
「年に2~3回くらいあるんだ。文化祭で踊るのは間違いないけど、これは本番だからね。後、この前お兄ちゃんの高校での部活商会での踊りは短縮バージョンだったはず。レイアが言うには、今回のるるぽーとでの演技は3月ぐらいに依頼があったって言ってた。時期が新入生が入るときなんであんまり練習が出来ないっていうのと、6月くらいから始まる大会に向けての練習もあるから微妙だって。でも、指導の先生が「こういうのは場数を踏んでなんぼ」ってなこと言ったんだって。」
つまり多少下手で、固くなっても、催し物であれば点数はつかないという判断か。
単純にスポーツだと、その試合にモチベーションを高めていくというのもあるから、イレギュラーで見世物やらせられるのは、精神的にしんどそうなんだけどな。
「新人さんが、特に女子中学生や女子高生のミスは、イベントの主催者からすれば、ほほえましい場面だそうよ。失敗した人からすればメンタルズタボロだと思うけど。特にるるぽーと舟野だから、それなりに関係者集まるしな。」
うん、聞いてるだけで胸が苦しくなるな。
(でも、そういうステージ、ダンスに限らず、演劇とか歌とか、演奏関係は、その雰囲気に慣れないときついそうだよ。普段の練習では観客なしでやってんだろう。それをステージから観客が見えた時の緊張は、本当に凄いらしい)
(親父、やけに詳しいが、経験あるのか?)
(まさか!こんなものはやったことないし、やろうとも思わん。とはいえ、化学会で発表するときにな、普段はスクリーン見て説明するんだ。教室くらいの広さのとこで)
(そういう研究してるんなら発表の機会ってあるんだろうね。よくわかんないけど)
(年に3~4回な。で、普段はスクリーンに見慣れた実験の過程が書いてあるんでどうということはなかったんだけど、ある日な、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズの新商品発表の時、慣習やカメラに顔を向けてにこやかにしゃべってるのを見て、「すっげえ~、かっこいい」と思っちゃったんだよな、若かりし研究者の白石影人くんは)
(確かにね。あの映像、すごくかっこいいわあ)
(言うべきことは頭に入ってたから、よしやってみよう、とスクリーンではなく、聴衆者に顔を向けたんだよ)
(で、何が起こったの?)
(頭が真っ白になった。言うべきことが完全に頭から飛んじまった)
(そ、それは、また、ご愁傷さまとしか…)
(時間を気にする素振りで演台のアンチョコを見るんだけど、どこまでしゃべってたかもわからなくなってな、あの時から変に格好つけるのはやめようと思った)
(なんか、納得)
(正直なところ、人の前でしゃべるっていうのも、完全に慣れなんだ。あの子たちみたいに踊ったり演技するわけじゃない。まあ、パフォーマンスをして、自分の研究がいかに素晴らしいかって言うのを、見せるっていう側面もあるけど、研究自体が役に立たなければ意味ないからね)
少し自嘲気味に親父が言った。
(そういう意味で「場数を踏んでなんぼ」っていう言葉が出るんだろう、きっと)
(静海にはわかっていない感じだったけどな。きっと、演じてる中学生くらいだと、変に緊張する機会を増やすなって思ってそうだ)
「お兄ちゃんどうしたの急に黙って。」
「うん、「場数を踏む」ってことを考えてた。」
静海が俺の沈黙を怪しんできたので、嘘ではないがすべてを語らない、と言う方法を取った。なんといってもこの妹、最近の俺に対する行動が異常におかしい。
親父が死んでからの俺の行動力を見直したというレベルではない。
何かを疑い、探っている気がしてならないのだ。
「その言葉が何か意味があるの?そのまんまでしょう。」
「そう言われたりすればそうだけど…。静海がこの公開練習の時に言っていた「目立ちたがり屋」が多いって話だけじゃない気がしたんだ。」
「何の話してんの、光人と静海ちゃん?」
横から伊乃莉が首を突っ込んできた。
後ろから「また光人呼び」という小さな幻聴が聞こえる。
「ああ、何でこんな「公開練習」なんてのをやってるかって話。」
「それって、あれでしょう?若いかわいい子が結構大胆なダンスをいやらしい目で見る男子や大人がいたり、盗撮して売ったり、ネットにあげちゃうからって。」
「非公開になった理由はそうなんだけどさ。じゃあ、なんでわざわざ公開するのかって話。部員が招待状配ることで不特定多数を集めないというのはあるけど、結局瀬良みたいなのがいるし。」
「おい、白石、なんか俺が性犯罪者予備軍みたいなこと言ってないか?」
「人に土下座する勢いでチケットを求めたのは何処のどいつだよ。」
「あ、しいません…………。」
強く文句を言う割には素直に引っ込む。
なかなか憎めない奴ではある
「それで、光人はなんで「公開練習」があると思ってるのかしら?」
「るなは「目立ちたがり屋の不満を解消させるため」みたいなこと言ってたよな。」
「うん、全くではないけど、そんな意味のことは言ったよ。」
静海がこちらと伊乃莉を見ていった。
うんうんと首を縦に振っている伊乃莉。
こちらからは見えないが後ろの二人も静かに俺の話を聞いている雰囲気があった。
「それも間違いではないと思うけど、普通、クラスでの目立ちたがり屋が、例えば文化祭のステージで緊張して動けなくなる、なんて聞いたことないか?」
急に伊乃莉が大きく頷いた。
「ああ、あった、あった。うちの中学のお調子者の男子が、文化祭でお笑いやろうって言って仲間集めて出たことあったんだけど。その言い出しっぺがステージに立った瞬間、固まっちゃってね。で、その4人くらいだったかな、の中の一番目立たない子が逆にその子をフォローして、何とか終わらせたことあったよ。お笑いの中身は微妙だったけど。」
「そういうことでね。さっきのるるぽーと公演も場での雰囲気に慣れるってことが一番の狙いなんじゃないかな。これがお金取ってのショーなら問題だけど、中高生のダンスで、1円もギャラが発生しなければ問題ない筈だ。」
おお~、とほかの4人が感心したような声を出す。
「で、さっきの話。この「公開練習」はそういうステージ前に少しでも観客に慣れさせするためなんじゃないかな。実際にダンスの完成形みたいなのを踊るのは現部員だろうけど、この練習を人目にさらして客からの目に慣らさせる目的が多いと思う。普段の自分たちを見てもらっていれば、ステージに立っても少しは緊張感が取れるんじゃないかと、先生たちは考えていると思うんだ。」
伊乃莉、静海、須藤、瀬良のアリーナで厳しく注意されている新入部員であろうと思われる女の子たちへの見る目が変わった気がするのは、俺だけだろうか。




