第161話 ダンス部公開練習 Ⅲ
アリーナの見学者は結構な数に上る。
しかも保護者なんだろうか、大人たちがちらほらと見学者の中に混じっている。
それはこの2階の観客席でも同様だった。
ステージとアリーナに部員の半分くらいだろうか、自分たちの定位置に立っているような印象がある。
それ以外の部員はアリーナの両脇に座っていた。
よく見ると神代さんがアリーナの真ん中くらいのところに立っている。
ふとその子が顔を上げ、こちらに向いて、ウインクらしきものをした。気がする。
「お、おい、今のって。」
瀬良が焦ったたような声を後ろから上げてきた。
音楽が鳴り始める。
結構なスピードのリズムに合わせて、階下の女子たちが踊り始めた。
かなりキレのある動きをしつつ、ポジションが目まぐるしく変わっていく。
可愛い女の子たちの動き、というだけでなく、素人の俺としてはその動きだけでも魅了されていた。
「皆さん!今日はダンス部「チーム・サンシャイン・ブリッジ」の公開練習に参加していただきましてありがとうございます。部長をやらせてもらっている小渕沢鏡湖です!今回は高1、中1の新入部員は参加せずに基本のステップの練習だけになりますが、いつものメンバーはGWでのるるぽーとでの演技の披露のため、練習しておりまして、その前のリハーサルも兼ねておりますので、随所で通し稽古やってきますので、よかったら最後までご覧になって行ってくださいね。」
部長の言葉に会場から、応援の言葉が方々からかけられていた。
「それで!さっきから何度もかかっていると思うんだけど、この公開練習の撮影は絶対ダメ!だからね。お願いします!」
ショートカットの目が大きな部長はそう言うと、周りに手を振って応えた。
「まずは、去年まで中学に在籍してた子たちだけの演技を見てもらいました。ということで、限高1の女子も踊ってもらったんですけど、次は高校生の演技を見てもらいますので、よろしく!」
と同時に、ステージの照明が落とされた。
と言っても、この体育館のアリーナには社交はしてないから十分に明るい。
まあ、雰囲気作りってとこだろう。
中学生の部でステージのセンターにいたダークブラウンの髪の毛が特徴的な子が、ステージを降りてアリーナの真ん中あたり、さっき神代さんがいた位置に立った。
ダークブラウンの髪の毛……?
音楽が結構な音量でなった。
さっきよりも少しテンポが遅めに始まった曲に、部員たちが少しスローに踊り始める。
言い方を変えれば少し大人っぽいという感じだろうか。
みんなが回転しつつその位置を変えていき、部長の人がステージ上で中央に来た時に音楽も動きも止まった。
終わり?
そう思った瞬間に、アップビートの曲がかかり、一気に踊りのスピードが速くなった。
気づいたら、部長がステージを降り、さらに先ほどアリーナの中央にいたダークブラウンの子がその部長と二人でステップを刻んでいた。
そこでまた曲調が落ち着くと、二人が離れ、部長はステージに、ダークブラウンの子はアリーナで踊る人のセンターに位置を変えて踊っている。
音楽が止まった時、ダークブラウンの子はステージへ、部長はアリーナのその子に手を差し伸べるようにして終わった。
一斉に拍手が響く。
「静海、あの先頭にいるダークブラウンの子って…。」
「うん、お兄ちゃん。そうだよ、柊夏帆先輩の妹さんの秋葉さん。中学の時から結構人気ある先輩。柊先輩の妹だからね、注目度はピカ一だよ。」
生徒会室でしか会ったことなかったけど、こういうダンスを見ると、さすがに柊先輩の妹って感じで、綺麗で、さらに格好良かった。
「あ、やっぱりそうなんだ。なんか似てるとは思ったんだけど。」
伊乃莉が感想を言った。
「ダンス部が騒がれるわけだな、これ。招待状とか出さなかったら、確かにパニックになりかねん。」
須藤の言い分はもっともだ。
俺も学芸会レベルと少し侮っていた。
景樹はさすがというべきか、とも思ったが、あいつは親と姉から言われてんだよな、きっと。
で、目につくと言われると、部長は確かにうまかったと思うけど、やっぱり柊先輩の妹さんだろうな。
無理に探そうと思ったら、みんなうまい、ってことになりかねんからな、俺は。
続いて、中・高の合同のダンスが始まった。