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第16話 須藤文行Ⅺ

 そのことが、さすがに今日僕を早く来させたことと関係がある事に気づいた。


「日向さんに関係あること、何ですよね、今、僕がここにいるのは。」


「そう、有坂の頼みでね。」


「ち、違うよ。ただ、雅にだな、せっかくだからこの場所を貸したい、って思っただけだ。」


 何のことだろう。日向さんが場所を借りるって?


「確かに、教室であんまり見せたくはないけど。だからって、ここである必要はない。」


「そうかもしれないけどさ、雅。ブンだってどこかファミレスとかって感じじゃないぜ。それに、それにさ、し、白石にも、見せるんだろう?」


「そのつもりだけど、もう一人にも見せても、私は一向にかまわないんだが?」


「うぐ。」


 二の句を告げられないと言ったところだろうか?


 ギャル先輩が変に言葉に詰まってる。


「ああ、ごめんね、須藤君。二人で変な話し、してて。別に大したことじゃないんだが…。君の小説を読ませてくれた代わりに、私の作品を見せるって話しただろう?」


「うん、覚えてる。ちょっと、楽しみにしてたんだ。」


「そう言ってもらえると嬉しい。で、だ。その作品は持ってきたんだけど、それとは別に、君の読ませてもらった小説でインスパイアされちゃったんだ。で、急遽ちょっと書いた作品も持ってきた。それも見てもらいたいんだけど…。」


 そう言って日向さんが隣で自爆したままテーブルに突っ伏してるギャル先輩を見る。


「えっ、ホント!それって、嬉しい!ってことはイラストみたいなもの?日向さんの作品って。」


 さっきまでのしどろもどろの口調が、一気にヲタモードに変わった。


「うん、そう。私、絵をかくのが趣味で、よくイラストを描いている。今までので、わりかし良くできたのと、「魔地」のイラスト書いてみた。」


 日向さんの言葉で、ギャル先輩が何かを言おうとしたが、日向さんが口元に人差し指を立てると、急に黙った。

 なんだろう?

 どうも秘密めいて、気になる。


「それは、今見せてもらえるんですか?」


 あれ、いけね!

 ちょっと敬語になっちゃった。

 日向さんの顔が微妙な顔をした。


「う~ん、そのことで相談なんだが、出来れば放課後に白石君とここに来てほしんだけど…。」


 と言いながら、日向さんはギャル先輩に視線を向ける。

 そこには、また顔を赤くしたギャル先輩がいた。

 あれ、なに、可愛いんですけど!


「それは構いませんが…。えっと、何か訳アリって感じですね。」


「まあ、そうなんだけど…。有坂がこんな風で、ちょっと居心地が悪いんだよね。できれば、状況の説明をしたいんだけども…。」


 日向さんが言うと、ギャル先輩は恐ろしいほどの高速で左右に首を振る。

 あんなに激しく首振って、脳震盪とか大丈夫なんだろうか?


「こういった調子でね。君に察してくれというつもりはない。ただ、白石君だけを連れて一緒にこの部室に来てほしいんだ。」


「まあ、察しは悪い方なんで、そう言ってくれると助かります。ただ白石だけを連れてきて、女子の方は遠慮願うということで、いいんですかね?」


 日向さんが大きく頷いた。

 その横のギャル先輩は、何故か日向さんの袖をつまんで俯いている。

 耳も頬も、ここから見える範囲は赤く染まってる気がする。


 僕と白石は決してワンセットではない。

 白石にくっついているのは僕ではなく…。


 でもなあ、僕がうまいこと言って連れ出せるとは思えないんだよな。


 日向さんみたいに、周りにある程度の緊張感を出せるような存在なら、圧のかけようも…。


 ああ、そうか。

 別に僕が全ての責任を果たす必要はないんだな。


「ごめん、日向さん。さっきの話なんだけどさ。白石には日向さんから言ってもらえるかな?」


「ン、何故に?君たちは友人だろう?」


「友人だと思ってるっよ、確かに。でもこの件は、作品を見せる本人から言うのが、多分一番問題がない気がする。」


「そう、かな。下手に私が声を掛けると、あの子が…。」


 そう、直接日向さんが声を掛けると、変な事になる気はする。


「それは僕が橋渡しをするよ。ただ、今のこと、作品を見せたいから僕と白石を文芸部に誘うという流れにした方がいいと思う。実際、僕が日向さんから頼まれたって言うと、白石が変に遠慮をする可能性がある。」


「どういう意味か、解りかねるんだが?」


「僕が中学時代に、あんまり女子と話をしたことがないって、白石は知っているんだ。こんなこと自分が言えることじゃないのは、よくわかってる。でも女子との会話は僕にとって重要だと思ってる節がある。変に自分が邪魔をしないようにってね。」


 僕の言葉に、かなり疑いの目で見てきた。


「さっきから、私とちゃんと話してるじゃないか?」


「うん、やっぱり趣味のこと、特に僕の作品についてのことで、日向さんとの会話が楽にできてることに、僕自身驚いてる。でもそのことを白石は知らない。この部室に、白石だけを連れてきたいのなら、直接日向さんが白石と話した方が手っ取り早いと思うよ。


「そ、そうか。そういうもんか。」


 そう言うと隣で小さくなってるギャル先輩に目を向けた。


 ギャル先輩、有坂先輩は上目遣いで上背のある日向先輩を見て、コクリと頭を下げた。


「ああ、わかったよ、有坂。じゃあ、その線で行こう。須藤君、悪いが白石君を呼び出す役をお願いしたい。」


「喜んで。」


 僕はそう言って、懸命に笑顔を作った。

 でもきっと日向さんには僕の歪んだ顔が、その瞳に映っていることだろう。


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