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第158話 瀬良を二人の女神に紹介

 静海の目が明らかに背の高い瀬良に注がれている。


「ふ~ん、今朝言ってたことは、まあ、本当だった、と。」


 少し疑わしげな眼差しを俺に向けてきている。


 だが、どう見てもこいつは男にしか見えんよな。

 こう見えて、こいつが男装の麗人なんて疑いじゃないよな。


「う、嘘は言ってなかったろう?静海。」


「にしては、態度がおかしいんだよね。いつもなら、まず紹介してくるだろうしさ。大体が、陰キャを売りにしていたお兄ちゃんが、こう、次から次へと友達を連れてくるというのも、なんか変。」


「ひどい言われようだな。」


「似合わないというほうがいいのかな、こういう場合。先輩はどう思います?」


 話を振られた伊乃莉が、少し苦い笑みを浮かべた。


「おかしい事とは思わないけど。入学したばかりだから、友人、というか知り合いは増えてくもんだよ。今はスマホを通じての友人網がすぐできちゃうだろうけど、光人の場合、お父さん亡くしたばかりでそこらへんは、おかしくなってるし…。この高校は通学圏が広いから、SNSでつながっても、あんま実際に会ってるとなると、結局近場でしょう?」


 一応、俺をかばってくれたってことだろうか?


「女じゃないから良しとするか。お兄ちゃんたち、食券買ってきなよ。伊乃莉先輩と私はもう買ってあるから、先に取りに行ってくる。」


「ああ、わかった。須藤、瀬良、行こうぜ。」


 俺はそう言って、瀬良の紹介を有耶無耶にしてやった。

 瀬良の顔が明らかな落胆の表情になっていた。


 なんて、ちょっとした嫌がらせをしたところで、同じテーブルで昼食を食べるのだから、結局紹介しないわけにはいかないのだが。


「同じクラスのバスケ部の瀬良。今回、本にの強い要望により、ダンス部の公式練習の招待状が欲しいと言ってきた。あまりにもうっとしいので分けてやってくれ。」


 真剣に紹介する気のない俺は、事実だけを静海に告げた。


 この紹介は女子二人をドン引きさせるのに成功したようだ。

 事実、まだ食べ始めたばかりの手が止まっている。


「その紹介はないだろう、白石。」


 泣きそうな顔になってる瀬良に少し同情してしまった。

 須藤を見ると「お前、やりすぎだろう」と小声で言ってきた。


「冗談だ。クラスメイトというのは本当だが、サッカー部の景樹がいけないと言われてな。その会話を聞きつけたこの瀬良が分けてくれと言ってきたという訳だ。なっ?」


「いや、確かに嘘は言ってないけどさ。さっきとあんまり変わんないじゃんか。」


「仲いいってことは解ったよ、光人と瀬良君。私は1-Fの鈴木伊乃莉。そちらの1-Gの宍倉彩音のと同中で親友。」


「わ、私は、お兄ちゃん、白石光人の妹でここの中学2年です。白石静海です。でも、あんまり変な目でダンス部の子を見ないでください。それがこの券を渡す条件です。」


「あ、ああ、了解。そ、そんなエロい目でなんか見ないって、あははは。」


 少しきつめに静海に言われたことで、明らかに動揺して言わなくていいことを言ったことに瀬良は気づいていないようだった。

 静海が軽いため息をついて、ラーメンを啜ったことに、どうやら気づいていないようだ。


「白石君と同じクラスの瀬良大智です。バスケ部です。よろしくです。」


 自分からもう一度紹介したのちに、俺に向き直る。


「な、なんで白石は鈴木さんから名前呼びされてんだよ!そ、そういう仲なのか!宍倉さんだけでなく。」


「そういう仲ってなんだよ。伊乃莉が呼びたいっていうから。」


「お前はお前で鈴木さんの名前を呼びつけ!」


 瀬良の慌てように、須藤が乾いた笑いをしている。


「とりあえず、二人の女神さまはお前には興味がないってことかな。」


「須藤、お前って、結構辛辣だな。」


「ん、そうでもないと思うが。ただ、白石とそれなりに付き合おうと思うと、この程度でダメージ食らってると、もっと泣くことになるからな。まあ、悔しい気持ちがあるなら、鈴木さんのことは今見たことを宮越に伝えておけばいい。」


「なんでだ?」


「仲間が出来ていいだろう。美人な鈴木さんと白石はこういう関係だって。」


 底意地悪い笑みを浮かべて須藤が言った。

 あれ、もしかすると須藤は俺に対してかなり嫉妬に近いものを持っていたのか?

 単純にあやねるが怖いということだけではなく。


「宮越って誰?」


 伊乃莉が美人とさりげなく須藤の言った誉め言葉にニンマリしながら、俺に聞いてきた。


「ああ、昨日な、伊乃莉がうちのクラスにいた時に誰か聞いてきたやつ。瀬良と一緒の男子バスケ部。伊乃莉があまりにも綺麗なんで俺に聞いてきたんだよ。紹介してくれってさ。俺もなんか面倒くさそうだったのと、伊乃莉も嫌がると思って惚けたまんまだが。」


 俺が言った「綺麗」という単語にまた反応していた。


「つまり、光人は綺麗な私を他の人に紹介するのが嫌だったってこと?」


 いや、これはこれで面倒くさくなってきたな。


 俺は日替わり定食のチキンカツを口に放り込み、よく咀嚼して飲み込む。


「伊乃莉が綺麗なのは当然なことだろう。こんなのに一々対応してたら、疲れるよ。それとも興味あるのか?」


「綺麗とか褒められるのは、そりゃあ、やっぱりうれしいよ。その宮越って、どんな男子?」


「興味ありありじゃん、伊乃莉。」


「えっと、俺よりは背が低めで、見た目は普通、ってとこで。」


 瀬良が宮越の説明をしているが、どう聞いても、蔑んでる気がする。


「なんだあ~、つまんないな。」


「伊乃莉さんや。あんまり人の言うこと、しかも外見だけでそういうのはいかがなものかと。」


「ならさあ。光人はその、宮越君?ってお勧めするの?」


「俺もそこんとこはよくわからないのでパス!」


「お前らさ、今ここにいない人のことを、あまり悪くいうもんじゃないだろう。瀬良も含めて。」


 須藤が、あきれたように俺たちの会話を全否定してきた。

 全くその通りなのだが、宮越のことを知らないのも事実なので、スルーしておく。


「機会があったら、伊乃莉に紹介するよ。あくまでも機会があったらな。」


 そう言って俺は残っている定食を食べ始めた。


 静海と伊乃莉が呆れたように俺を見ているが、知らないふりをしておいた。


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