第157話 瀬良君、須藤君に絡む
思ったより時間がかかったが、須藤と瀬良は行儀よく教室で待っていた。
「悪い。結構時間取られた。」
二人を見てすぐにそう声を掛ける。
その声に、須藤の表情が明らかに「助かった」という表情に変わった。
別に瀬良からいじめられてるようではなかったが。
「本当に遅いな。白石、お前何やらかしたんだよ。」
前提がそれかよ。
「なんかさ、岡崎先生の親父さんが東京に仕事の関係出来てるらしいんだけど、その親父さんがうちの親父と知り合いらしいんだ。で、線香あげにうちに来たいって言われたよ。」
「あんまり先生に家、来られるのは嫌だな。」
本当に瀬良は本音で生きてんだな。
と言っても、普通は先生に家に来られて、親に何か言われたらと思うと、あんまり歓迎はできないか。
「うちの親父はある意味有名人になっちまったから、日本全国の知り合いが死因を知ってるって状況だからさ。線香あげたいって言われたら、よっぽどのことが無い限り、断りづらいよ。」
俺の言葉に須藤は頷いている。
「そう言われりゃ、そうかもな。悪いな、、白石。親父さんなくなってるんだもんな。親父さんの知り合いを無碍にはできないか。」
「もっとも、俺はよく知らないから、正直対応には困るけどさ。」
「もし機会があれば、俺も線香あげに行くよ。」
「その気持ちだけで十分だ。それよりも、瀬良さ、須藤に何言ってたんだ?やけに困った顔してんぞ。」
この教室に入ってきたときの須藤の顔を思い出して、瀬良に問いかけた。
須藤が俺の瀬良への質問に、心底嫌そうな気持を顔に出している。
「別に、ただの雑談だよ。須藤はどんな子が好きかって。このクラスに気になる子がいるかってさ。」
それは陰キャ気質の須藤には拷問だな。
変な答えを言おうものなら、絶対いじられるからな。
こういう時は、そのクラスで間違いなく1番人気の明るい女子を言うのが、定番みたいなもんなんだが…。
さて、このクラスの女子、ある意味みんな可愛いと思えなくもない。
顔の造形なら山村咲良になるとは思うが、明らかに嫌な雰囲気を持ってるんだよな。
しかも、柊夏帆を全員が結構な時間見てしまっていたら、山村の粗が目立つ、気がする。
だからと言って、須藤は絶対あやねるの名前は出さない。
何といっても、彼にとっては恐怖の対象だ。
他に須藤が分かるような女子となると、変に名前を上げれば、瀬良は絶対それをいじるに違いない。
「それを瀬良にいう訳はないと思うな。宮越のいじりを見てたら、絶対瀬良岳には言わないぜ。」
「そんなに俺って、信用ないのか?」
俺と須藤はしっかりと首を縦に振り、肯定した。
「うわあ、ショック!友達に裏切られた!」
「いや、裏切ってなんかいない。正直な気持ちを伝えただけだ。」
追い打ちをかけた。
「お、お前らなんか…。」
その後を言う前に気付いたようだ。
彼にとって夢のチケットを誰が持っているかという事を。
「そうだな、いい加減学食に移動しよう。そこでチケットを受け取らないとな。」
「お、おう。白石様、一生、ついて行きます。」
正直な話、瀬良に一生付きまとわられたら、非常にうざいことは明白だ。
「調子いいな、瀬良は。」
須藤が皮肉交じりに言った。
が、瀬良に通じるはずもなく「それほどでも」と返してきて、須藤はため息をついていた。
同じ班なんだが、大丈夫だろうか。
伊乃莉のクラスの大江戸の心配どころではないな、これ。
英語準備室を出る時に静海には連絡をしていたので、すでに学食の席を取っていてくれた。
くれたんだが、そこに強烈な既視感が俺を襲った。
そこには静海一人だけではなかった。
既視感の原因は、あやねるの親友伊乃莉だった。
「光人、こっち、こっち。もう私たち、食べ始めちゃったよ!」
その前の席で「アハハ」と力なく笑う静海がいた。
伊乃莉は結構静海を気に入っている。
で、伊乃莉の弟、悠馬君が静海を好きで、出来れば付き合ってほしいと願っているほどだ。
だからと言ってごり押ししているわけではないんだが。
「伊乃莉はあやねる待ちか?」
「そんなとこ。あっちは生徒会の人と一緒に昼食食べてるらしいけど、ダンス部の練習には一緒に見に行く予定だからさ。学食で食べようと思ったら、静海ちゃんを見つけたってわけ。」
あっけらかんという伊乃莉に、静海が苦笑いをしている。
流れとしては、いつもの友人といく予定だったが、その友人がサッカー部の彼と一緒にサッカー部のマネージャーになって、今回来れない。
そのサッカー部関連で鈴木悠馬君の話になった。
そんなとこだろう。
静海の横に荷物を置いて、食券を買いに行こうとしたら、誰かに脇をつつかれた。
瀬良だ。
「お願いです、白石様。そこの二人の美少女、いや、女神さまにわたくしめを、紹介してください。」
その言葉に、えも言えぬ脱力感に囚われ、つい大きなため息を出してしまった。




