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第155話 室伏祐樹との邂逅

 景樹を見送っていると、どうやら寝不足が解消した須藤が肩を叩いてきた。

 振り返ると須藤だけでなく、瀬良といかつい顔をした体格のいい男子が瀬良の少し後ろに立っている。

 室伏君だ。


「なんか俺と話がしたいって、瀬良から聞いたんだが。そんなに女の子は紹介できないぞ。」


 リアクションに困ることを言ってくる。


「なんてな。モテモテの白石が、さらにその帝国の範囲を広げようとは思っていないぞ。」


「え~と、室伏君?君は何を言ってるんだ。自分の知らないうちには、日本はまた帝国主義を復活させたのか?」


「気持ち悪いから室伏でいいよ。あれ、「白石ハーレム」と言われるのを極度に嫌がっているから「帝国」と置き換えたんだが。違ったか?」


「どうすればそういう発想になるんだよ。俺はハーレムも帝国も作った覚えはない。何人も女子を侍れせているわけでもない。」


 その言葉に、ガハハハと豪快に笑う。

 その笑い顔は、この男を好きになる女子には可愛く見えるかもしれないと思うくらいに無邪気だ。


「で、うちの班のことだろう。弓削さんが白石の班に伝えたことは言ってたよ。」


 こいつは解ってて、さっきのことを言ったってわけか。

 ひでえ奴だ。


「そのことだよ。出来たら、変な事考えてる奴がいたら、それとなく教えてくれると助かると思ってな。」


 少し不機嫌君に室伏に伝える。

 その言い方を面白そうに、瀬良が見ていた。


「俺も弓削さんもそういうのが好きでないんでな。あいつらが裏で集まって何かしてるみたいなものはあるんだが、具体的なことは解らん。最初に山村の焚きつけに反発したせいか、他の班員でLIGNEのグループを組んだみたいだ。」


 ほう、露骨だな。


「そのグループにうちの班の塩入が入ってるってことは無いか?」


「塩入?ああ、委員長に立候補してたやつな。どうだろう?そこはよくわからんが、もし旅行中にそういう接触があるようなら、連絡するよ。IDの交換、いいか。」


「助かる。」


 すぐにスマホでお互いのIDを交換した。


「室伏、これからもよろしく頼むよ。」


「ああ、よろしくな、白石。それと今度、宮越が惚れたっていう女子、紹介してくれ。」


「機会があったらね。」


 俺の言葉にまた豪快に笑って、そのまま教室を出て行った。


「いい奴だろう、室伏。」


「どうだかな。最初の冗談は笑えん。」


「まあ、そういうな。あいつにしては一生懸命笑わせようとしたみたいだからな。」


 俺が瀬良の声にかなりおかしな顔をしたようだ。

 瀬良が薄ら笑いをして、俺を見る。


「自己紹介、覚えてないか?あいつ、結構お前のこと、気にいってんだよ。正義感、強い奴らしいから。」


 最後の言葉が断定でない当たり、付き合いの浅さが見て取れる。

 当然入学して10日程度。

 当たり前の話だ。


 それでも、室伏と連絡が取れるようになったのは心強い。


「それで、幸福のチケットの受け渡しは何処ですんだよ、白石。」


 こちらも安定感があるな、エロ瀬良。

 だけど本当にこいつを静海に合わせてもいいのか、ちょっと考えてしまうな。


「ちなみにだけど、男バスって今日は練習ないのか?」


「いや、通常通りあるぜ。1時半から。」


「ダンス部の練習と丸被りだな。」


「それは大丈夫。幸運のチケット手に入れた奴は、そっちを優先していいって、お達しがあったから。」


 うちの男子バスケはどうやら弱いようだ。


「だからさ、宮越なんかさっき恨めしそうにこっちを睨んでた。」


 可哀想とも思うが、昨日の件があるので、痛みは全く感じない。


「さっき先生に呼ばれたからさ、少し待っててくれるか?須藤は今日は弁当持ってきたのか?」


「母さんに午後用事があるからって言ってあったんだけど、すっかり忘れられたみたいで、謝られながらこれを渡された。」


 そう言って、500円硬貨をポケットから取り出した。


「静海と学食で待ち合わせてんだけどさ、良かったら先に「断る!」」


 俺の言葉が終わる前に拒否られた。


「俺がお前の妹と白石なしで会話はできない!」


 わからなくもないが…。


「じゃあ、ちょっと先生のとこ行ってくるから、ここで待っててくれ。」


 須藤が大きく頷いた。


「じゃあ、俺も待ってるよ。白石は学食利用か。いつも弁当を持ってたようだが。」


「今日はな。毎日お袋に無理言うのも悪くてさ。学食は結構安いだろう?こういう日は楽させないと、倒れられたら洒落になんないから。」


「父ちゃんがいないんじゃ、そりゃあお袋さん、大変だよな、うん。」


 変に納得している。


「どんな要件かわからんけど、まさか帰りがけに長時間のお説教をするとも思えないからな。ちょっと待っててくれ。悪い!」


「ああ、しっかり怒られて来い。」


 どうやら、エロ瀬良の中では俺が岡崎先生に怒られるのが、当然と思っているようだ。


 とは言っても、全く怒られる記憶はないんだがな。


 俺はそのまま教室を出た。


「光人君!」


 ちょっと廊下を歩いたら後ろから声を掛けられた。


 あやねるだ。


「生徒会室まで一緒に行こうよ。」


 そう言って俺の横に並んできた。

 微かに甘い匂いがした気がする。

 これは確かあやねるの家で嗅いだ匂い。

 うん、ボディーシャンプーの匂いだね。


「さっき、室伏君と話していたみたいだけど、珍しいね。」


 見られてたか。

 うん、別に隠れてたわけではないから、当たり前なんだけど。


「うん、ちょっとね。自己紹介の時に俺をかばってくれた奴だったから、どんな人かと思ってたんだ。そうしたら瀬良が知り合いだったんで、ちょっと話してみた。」


「なんか豪快に笑ってたよね。見たまんまで、少しおかしかった。」


「うん、いい奴っぽい。まだそこまでよくは解んないけどね。」


「それってさ。」


 あやねるが歩きを止めて、俺を見た。


「私のため?」


 そりゃあ気付くよね。

 弓削さんが室伏と一緒に話し合いを拒否したって言ってんの覚えてたら。


「うん、まあね。それだけじゃないけど。いやな気分なんか、誰もなりたくないからさ。」


 俺の顔をじっと見ていたと思ったら、不意に目を逸らした。


「ありがとう。」


 そう言うと急に歩き出した。


「ちょっと急ぐね、光人君。また後で!」


 俺はそんなあやねるの後姿を、ただ見送った。


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